起業家けんすうが10年以上勧めてきた1冊の本
Newsweek Japan
<「アイデアをマニュアルにまで落としている」とロングセラービジネス書『考具』を評する古川健介氏。インタビューはアイデアの生み出し方から、AI時代に求められる働き方――「旗を立てる仕事」――にまで及んだ>
若き実業家、いわゆるアントレプレナー(連続起業家)であり、ツイッターで15万人以上のフォロワーを抱えるインフルエンサーでもある古川健介さん(通称「けんすう」)。
19歳で学生向け情報交換サイト「ミルクカフェ」を立ち上げ、大学時代に掲示板「したらばJBBS」を運営する会社の社長となった。その後はリクルート社を経てハウツーサイトの「nanapi」をリリースするなど、ウェブ上の「楽しい」「便利」を次々と生み出している。
現在はKDDIグループのデータテクノロジー企業、Supership株式会社の取締役も務めるけんすうさんは、ツイッター上でPeing(ペイング)という匿名質問サービスを活用し、フォロワーからの質問に答えている。「メリットもないし楽しいわけでもないので、嫌だなあって思いながらやってます(笑)」と言うが、多いときには1カ月あたり3000件もの質問に答えたそうだ。
あるとき、「趣味でプログラミングの勉強を始めたが、作りたいものがこれと言って思い浮かばない。作りたいものってどうやったら思い浮かびますか」という質問が届いた際、けんすうさんはこう答えている。
「考具、って本が良かったです」
『考具』(CCCメディアハウス)は2003年に出版され、現在15万部・39刷を重ねているロングセラーのビジネス書だ。著者の加藤昌治さんは大手広告会社に勤務し、「新商品発売機の情報戦略立案から、着ぐるみショーの台本まで、およそ情報に関する企画ならなんでも来いの状況」をこなしてきた。
そんな加藤さんがアイデアを生み出すための道具、つまり「考具」についてまとめた同書を、けんすうさんは10年以上もの間、誰かに勧め続けてきたという。
この本の何がけんすうさんに響いたのか。そして、『考具』刊行から15年たち「AI(人工知能)時代」ともなった現在、アイデアを生み出すこと、働くことについて、どう考えているのか。
けんすうさんに話を聞いた。まず、手に取ったきっかけは何だったのだろうか?
それが覚えてないんです。大学2、3年ぐらいか社会人になったばかりの頃だと思うんですけど、アイデア系の本を読んでいた時期に手に取りました。当時は常に「何か面白いアイデアはないかな」って探していたので。この本のようにアイデアをツールというか、マニュアルにまで落としているのが珍しいなと思った記憶はありますね。
それまでのアイデアの本って「周りをよく観察しましょう」とか、抽象度が高いものが多かったのですが、『考具』は「今日は赤色と決めて、赤色のものを探して観察しましょう(※)」みたいに具体性を持たせたアイデアの発想法が多くて、そこがいいなと思ったんです(※今日のラッキーカラーを決め、「見えるから見る」に意識を変えていく手法「カラーバス」を指す)。