中国では600万部突破──稲盛和夫の『生き方』が世界の人々の心を揺さぶった訳
──『生き方』にも、社会や人の本質を射抜くような力がありますね。
ありますね。私なりに稲盛先生の言葉の特徴をとらえて申し上げるならば、「鋭さ」と「平易さ」が挙げられます。「一流の人は、難しいことをやさしく伝える。二流の人は、難しいことは難しく伝える。三流の人は、やさしいことを難しく伝える」と私はよく口にするのですが、稲盛先生の言葉は研ぎ澄まされたものでありながら、とてもやさしいですよね。
稲盛先生は臨済宗妙心寺派の円福寺で得度され、宗教的にも深い探求をされていて、非常に高い精神性をお持ちです。仕事の場で苦しみ鍛え抜かれた経験と、人間の心についての深い洞察が、鋭利でやさしい言葉につながっているのではないかと思います。
刊行まで7年、熱意の広がりは世界にまで
──『生き方』は企画時点で大変な熱意をかけて準備されたと伺っています。制作のご様子をお話しいただけますか。
『生き方』は、企画から刊行まで7年ほどかかっています。先生とお会いするまでにもずいぶん時間がかかりました。
野心的なオファーではあるんですけれども、私たちは先生の代表作になるようなものをつくりたいと本気で思っていました。それまでのご著書は経営的なものが多かったので、もっと広く一般の読者が読んで感動するような、先生の考えと体験を凝縮して大きなエネルギーをもつ本にしたいというお願いをしたんです。
そのときの稲盛先生には先行している企画の依頼がいくつもあって、私たちと本をつくれるとしたら何年か先になると言われました。それでもかまわないとお伝えしたところで、簡単に引き受けていただけるわけではありません。
そこで、引き受けていただけるかは別として、社を挙げてこの企画に取り組もうということになりまして、当時の担当編集者が自らホテルに缶詰になって、先生の著作はもちろん、盛和塾の会報誌すべてにまで目を通すという取り組みを始めたんです。
──まだ企画を引き受けていただけていない段階で、そこまでの取り組みができる会社は少ないかもしれないですね。植木社長はその様子をどうご覧になっていたのでしょうか。
たしかにここまでする会社は少ないかもしれません。もし先生に引き受けていただけなかったら、時間も労力も無駄になってしまうと考えるものです。でも、私は仮に稲盛先生に企画を断られたとしても、そこで編集者が缶詰になって盛和塾の会報に目を通すことは、どこかで会社のプラスになるに違いないと、そうした取り組みをしていこうと思ったんです。