中国では600万部突破──稲盛和夫の『生き方』が世界の人々の心を揺さぶった訳
私たちはそれを稲盛先生にアピールするためにやっていたわけではなく、それくらい本気で取り組むことが必要だと考えてやっていたことなんですけれども、不思議なことに稲盛先生のような一流の方ともなると、聞かなくてもわかるようなんです。私たちが、本気で準備していることが伝わって、ぜひそういう姿勢で取り組む人たちと仕事をしたいと言っていただき、いくつも順番を飛び越えて、私たちの企画をやっていただけました。
トップに立つような方は、目に見えないものが見える人なんだなと思わされました。それは経営の世界の話だけではなく、一流の人同士は、初対面でも長年の知り合いのようになめらかに対話をすることがありますよね。あれはきっと、目に見えないことが見えるという、共通の地下ケーブルのようなものが両者の間につながっているからなのではないかと。そんなことも、本づくりを通して学ばされたことの一つです。
──熱意が稲盛先生にも伝わったからこそ、この企画が実現したんですね。その熱意は時間も場所も越えて多くの読者にも伝わっているようです。
この本は2004年の刊行で、10年かけてミリオンセラーになった稀有な例です。それからも売れ続け、今では150万部に達しました。19年をかけ、本自体の成長を感じさせられます。読者の方からも、出版人冥利につきるようなご感想をいくつも頂戴しています。本には人の人生を変える力があると実感しますし、本づくりという代替できない仕事に関われることのありがたさを感じます。
『生き方』は世界16か国に翻訳されて、中国では600万部を突破しています。日本での盛和塾活動は終了となりましたが、中国では活動が継続しており、会員は2万人に達しているようです。欧米とは異なるかたちの資本主義のあり方を模索している今の中国で、ここまでの大きな支持を集めることには驚かされます。稲盛先生の心の火が、どこまでも広がって多くの人の人生を変えていこうとしているようです。
日本人のスピリットが織り込まれた活字が、世界で売れないわけがない
──サンマーク出版さんでは、『生き方』を含め、これまで8冊のミリオンセラーを出されていますね。小さな出版社としては異例の数ですが、本づくりで心がけていることを教えていただけますか。
3つ挙げるとしたら、第一は「本のエネルギー」です。編集者のエネルギーはもちろん、著者の「本然」、本来そこにあるものを凝縮して一つのエネルギーにして、それを人の心に吹き込んでいきたいと考えています。