40、50代こそリスキリングが必要...なのに「勉強すべき人ほど勉強しない」日本の会社員
後藤 人間は怠惰な生き物で、追い込まれないとなかなか課題解決に本腰を入れようとしません。ヨーロッパやアメリカでは、デジタル化のためのリスキリングにとどまらず、脱炭素化に向けた人材育成として「グリーン・リスキリング」が進んでいます。特にヨーロッパのグリーン・リスキリングの本気度が違うのは、ヨーロッパの気温上昇が急速に進んでいるからです。
大賀 リスキリングに本気で取り組む企業は、「このままでは自社は立ち行かなくなる」と強い危機感を抱いているのですね。
後藤 リスキリングによる変革に成功した、ある米国企業の役員は、「社長自らリスキリングしないと退陣に追い込まれるという危機感が重要」だと語っていました。現に、AIサミットやテクノロジーの展示会には経営層がブースを熱心に回っている。テクノロジーのトレンドを知らないと自社の投資判断もできないからです。
大賀 人材育成にかける費用も欧米では日本の10倍くらい違いますよね。
後藤 日本の上場企業も人的資本の開示が義務づけられましたが、今後投資家は非財務情報として、経営層だけでなく従業員のスキルも開示を求めていくでしょう。リスキリングへの投資の有無がそこでも明らかになります。もし社長がリスキリングへの投資の重要性を理解していないのなら、理解のある会社に移るという選択肢も考えたほうがいいでしょう。そのうえで、人事担当者自らがリスキリングを実践できているか、振り返ることが大事です。
米国では毎月400万人以上の従業員が自主退職をしていますが、一番の理由が「勤め先に成長機会がないから」というものです。この動きは日本でも始まっていて、新卒社員からは「自分を成長させてくれる企業で働きたい」という声が高まっています。こうしたことから、優秀な人材の採用・雇用という意味でも、企業がリスキリングの機会を提供することは急務でしょう。
大賀 リスキリングによって事業を成功に導いた国内外の事例はありますか。
後藤 成功事例の1つは、プラスチックの包装と印刷を主力事業としていたサウジアラビアの製造企業です。同社の経営者は、SDGsに対応するためデジタルへの移行を宣言。企業内大学を立ち上げて、全従業員の6割にあたる約2000人をリスキリングしました。工場をスマートファクトリーにし、いまや製造業向けデジタル変革コンサルティングを売上の30%にまで成長させています。リスキリングによって事業のピボットに成功した好例といえるでしょう。