最新記事

文章術

いい文章を書くなら、絶対に避けるべき「としたもんだ表現」の悪癖

2021年11月5日(金)11時59分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

次は、全国紙に載った書評の一部だ。


〈そもそも何故キリンの首は長いのかという疑問から出発し、最もキリンに近い動物がオカピであることを教えてくれて、大型動物の解体・骨格標本作成を通して未知の世界の扉を開けてはわかりやすく説明してくれる。

著者と共に解剖学の論文を読み解き、世紀の大発見につながる研究テーマを獲得するくだりは、非常にワクワクした。郡司さんのキリンへの愛が本からこぼれ出てくるようで、愛しい気持ちもお裾分けしてもらった。〉

ここにいわゆる「常套句」はいくつあるだろう。常套句はない、と思う読者もいるだろう。しかし、わたしだったら、推敲の段階で「この表現は削るか、再考する」という箇所が、短い文章に少なくとも五カ所ある。

・未知の世界の扉を開けては
・世紀の大発見
・非常にワクワクした
・愛が本からこぼれ出て
・愛しい気持ちもお裾分け

たしかに、文意は通じている。よく見る表現でもある。ひとつひとつを解説しないが、たとえばいちばん簡単な「非常にワクワクした」。第5発で述べるとおり、ワクワクするという擬態語の使用に疑問符がつくのは当然として、ワクワクの前の「非常に」が、わたしにはひっかかる。ワクワクするときは、必ず、いつでも、「非常に」ワクワクするものではないのだろうか。強調の形容語とセットになって使うことが常套的になっているのではなかろうか。

■「としたもんだ表現」――小手先で片づける怠慢な文章

もう一歩進む。常套句とは、「美しい海」「燃えるような紅葉」という、ありきたりな形容や比喩表現だけではないことに注意が必要だ。常套句の派生として、「としたもんだ表現」というのもある。


〈年末の東京・表参道。都内の私立大3年の女子大学生(21)は、イルミネーションの中、黒いリクルートスーツ姿で歩いていた。〉

全国紙の新年連載で、第一回を飾った文章の書き出しだ。新年の新聞一面に載る大型連載というのは、記者にとって晴れがましい舞台であり、どんな新聞でも、もっとも力を入れる記事である。その書き出しが、冒頭の一文だ。

記者はもちろん、「デスク」といわれる文章の直し役も、見出しを付ける整理記者に校閲記者、社会部長や編集局長ら新聞社幹部、多くの人間が目を通して、この文章になったのだ。

わたしはこれを、「としたもんだ表現」と呼んでいる。新聞の、ストレートニュースではなく、読みものとしてのルポルタージュは、こうやって書き出す「としたもんだ」。そういう共通認識が、記者のあいだである。その、典型的な例という意味である。新聞とは、そうしたもんだ。読みものはこうやって書き出すとしたもんだ。新聞業界の長年の手癖のような文章だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中