最新記事

ネット

ハフィントン流最強ニュースサイトの作り方

ウェブメディアの女王が切り開くオンライン・ジャーナリズムと商売のきれいごとじゃない未来

2010年9月1日(水)16時03分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

重鎮 マルチな活動で数字では見えない存在感をもつアリアーナ・ハフィントン(10年4月) Phil McCarten-Reuters

 もし今日のインターネットメディア業界の勝者を決めるとすれば、断トツでアリアーナ・S・ハフィントンだろう。彼女が創設したニュースサイト、ハフィントン・ポストの6月のユニークビジター数(同じ閲覧者の重複を省いて集計したサイト訪問者数)は2439万に達した。他の多くのネットメディアと比べれば5倍近く。ワシントン・ポストやUSAトゥデーのサイトを上回り、ニューヨーク・タイムズ電子版にも迫る勢いだ。

 2010年のハフィントンの売り上げは約3000万ドルに達する見込み。既存の巨大メディアに比べれば取るに足りない額だが、ネット上のライバルの多くよりははるかに大きい。そして遂に、わずかながら利益も出始めた。

 ただしネットメディア業界における存在感は、数字だけでは分からない。5年ほど前、アリアーナと友人の左派系著名人たちが、ブッシュ政権への怒りをぶちまける場としてスタートしたこのサイトは今、ウェブ上で最も重要なニュースサイトの1つになった。

 ハフィントンは、香水の広告でトップレスになった女優ジェニファー・アニストンの写真のようにアクセスを稼ぐためのゴシップネタも多く扱いながら、他方では政治からスポーツ、ビジネスからエンターテインメントまであらゆる分野のニュースを網羅している。このサイトの使命は「重要な問題について国民的議論の場を提供する」ことだと、アリアーナは言う。

 7月のニューヨーク。60歳の誕生日を迎えたあるじめじめした日の午後、アリアーナはソーホー地区のビルの3階にあるハフィントン本社で、サンペレグリノのミネラルウオーターを飲み、リンゴのスライスをかじっていた。

 しょっちゅう出入りするアシスタントたちは、チョコレートや伝言、アリアーナの元夫で元下院議員(共和党)のマイケル・ハフィントンからの電話がつながったブラックベリーなどを持ってくる。

製作費を究極まで下げる

 アリアーナは、広告に関する会議での講演から戻ったばかり。講演は年間100回以上。彼女をネットメディア時代の救世主、ブログの女王、ジャーナリズムの未来の開拓者などと敬うテクノロジー関係者や出版関係者からひっきりなしに依頼が舞い込む。

 だがハフィントンの経営状態をもう少し詳しく知ると、アリアーナが開拓しているジャーナリズムの未来が極めて厳しいものだと分かってくる。ハフィントンには多くの読者がいるが、他のほとんどのサイトと同じく、読者から収入を上げるうまい方法がない。

 ハフィントンは今、年間に読者1人当たり1ドルしか稼いでいない。既存の主流メディアに取って代わるなど夢のまた夢だ。何しろケーブルテレビ局や新聞は、1人の視聴者や定期購読者から年数百ドルを集め、その上に数千万ドルの広告収入を稼いでいる。

 もちろん単純には比較できない。テレビや新聞はウェブサイトと比べればはるかに固定費が高い。それでも収入の桁違いの開きを見ると、現在進行中の変化がいかに過激なものかが分かる気がする。

 既存メディアも、売り上げの減少に悩んでいる。本誌(米国版ニューズウィーク)も業績不振で親会社のワシントン・ポスト・カンパニーから売りに出されているから、その激震ぶりはよく分かる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望的な瞬間、乗客が撮影していた映像が話題
  • 3
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手」を知ってネット爆笑
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 6
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 7
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 8
    中国経済に大きな打撃...1-2月の輸出が大幅に減速 …
  • 9
    鳥類の肺に高濃度のマイクロプラスチック検出...ヒト…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中