コラム

「習vs.李の権力闘争という夢物語」の夢物語

2020年09月24日(木)10時00分

李克強が企業家座談会を欠席した「異常」

間違った批判の例をもう1つあげよう。私は「習近平vs.李克強の権力闘争が始まった」の論考で、今年7月21日に習近平主席が主催した企業家座談会に李克強首相が欠席していることを取り上げ、それは習による露骨な李克強外しであって権力闘争激化の証拠だと論じた。批判文の筆者はこれに対し、十数年前の「前例」を持ち出して反論している。

反論の趣旨はこうである。当時の胡錦濤国家主席が主催した2007年2月の「党外人士迎春座談会」にも、2011年1月の「迎春座談会」にも、胡と関係良好の温家宝首相(当時)は出席していないから、今の李克強首相の「座談会欠席」は決して習近平と李克強の仲の悪さの証明にならない、という。

一見説得力のある反論に聞こえるが、実は1つ決定的な混同がある。ここに出ている「迎春座談会」と「企業家座談会」はそもそも性格が異なるのである。

確かに、指摘のように上述の2つの「迎春座談会」に温首相は出席していない。しかし批判文の筆者自身がはからずも認めているように、この2つの「迎春座談会」はそもそも首相の温家宝が出席しなければならないものではない。

中国国家主席が毎年の旧正月に当たって主催する「迎春座談会」あるいは「党外人士迎春座談会」は共産党政権の行う「統一戦線工作」の一環であって、最高指導部の中ではそれを担当する別の指導者がいる。時の政治局常務委員兼中国人民政治協商会議主席である。今この任に当たっているのは汪洋であり、胡錦濤政権時代の政治協商会議主席は賈慶林であった。共産党政権の慣例上、党総書記・国家主席に伴って「迎春座談会」に出席するのは統一戦線工作担当の政治協商会議主席である。

実際、上述の2つの座談会の両方ともに当時の政治協商会議主席である賈慶林が出席している。同じ政治局常務委員で統一戦線工作担当の指導者が出席している以上、首相である温家宝の出番はない。つまり当時の温家宝首相にはそもそも、上記2つの座談会に出席する必要はなかったのである。

しかし、今年7月に習近平主席主催の「企業家座談会」は性格が全く違う。国の経済運営はまさに「国務院総理」の担当する仕事の一つであり、企業家たちを招いて経済政策などを討論したこの座談会にはどう考えても、首相の李克強が出席しなければならない。実際、7月の「企業家座談会」では「いかにして経済的主体の活力を発揮できるか」など経済政策が討議された。筆頭副首相の韓正が出席する中、同時に北京にいるはずの李克強首相が欠席したのはやはり異常である。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、米中摩擦緩和の思惑 イベント控え様

ビジネス

訂正-富士通、今期営業益35%増見込み 売上は2%

ビジネス

富士通、発行済株式の6.75%・1700億円上限に

ビジネス

キヤノン、通期業績を下方修正 為替と米関税政策の影
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 6
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story