「習vs.李の権力闘争という夢物語」の夢物語
李克強が企業家座談会を欠席した「異常」
間違った批判の例をもう1つあげよう。私は「習近平vs.李克強の権力闘争が始まった」の論考で、今年7月21日に習近平主席が主催した企業家座談会に李克強首相が欠席していることを取り上げ、それは習による露骨な李克強外しであって権力闘争激化の証拠だと論じた。批判文の筆者はこれに対し、十数年前の「前例」を持ち出して反論している。
反論の趣旨はこうである。当時の胡錦濤国家主席が主催した2007年2月の「党外人士迎春座談会」にも、2011年1月の「迎春座談会」にも、胡と関係良好の温家宝首相(当時)は出席していないから、今の李克強首相の「座談会欠席」は決して習近平と李克強の仲の悪さの証明にならない、という。
一見説得力のある反論に聞こえるが、実は1つ決定的な混同がある。ここに出ている「迎春座談会」と「企業家座談会」はそもそも性格が異なるのである。
確かに、指摘のように上述の2つの「迎春座談会」に温首相は出席していない。しかし批判文の筆者自身がはからずも認めているように、この2つの「迎春座談会」はそもそも首相の温家宝が出席しなければならないものではない。
中国国家主席が毎年の旧正月に当たって主催する「迎春座談会」あるいは「党外人士迎春座談会」は共産党政権の行う「統一戦線工作」の一環であって、最高指導部の中ではそれを担当する別の指導者がいる。時の政治局常務委員兼中国人民政治協商会議主席である。今この任に当たっているのは汪洋であり、胡錦濤政権時代の政治協商会議主席は賈慶林であった。共産党政権の慣例上、党総書記・国家主席に伴って「迎春座談会」に出席するのは統一戦線工作担当の政治協商会議主席である。
実際、上述の2つの座談会の両方ともに当時の政治協商会議主席である賈慶林が出席している。同じ政治局常務委員で統一戦線工作担当の指導者が出席している以上、首相である温家宝の出番はない。つまり当時の温家宝首相にはそもそも、上記2つの座談会に出席する必要はなかったのである。
しかし、今年7月に習近平主席主催の「企業家座談会」は性格が全く違う。国の経済運営はまさに「国務院総理」の担当する仕事の一つであり、企業家たちを招いて経済政策などを討論したこの座談会にはどう考えても、首相の李克強が出席しなければならない。実際、7月の「企業家座談会」では「いかにして経済的主体の活力を発揮できるか」など経済政策が討議された。筆頭副首相の韓正が出席する中、同時に北京にいるはずの李克強首相が欠席したのはやはり異常である。
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