コラム

習近平の気候変動サミット参加がバイデンへの「屈服」である理由

2021年04月22日(木)11時52分

独仏首脳とのオンライン気候変動サミットに参加した習近平主席の映像(北京、4月16日) Florence Lo-REUTERS

<中国の習近平主席が会議開催前日、というギリギリのタイミングで米主催の気候変動サミット参加を表明した。かなり異例な「駆け込み参加発表」の背後には、直前の日米首脳会談と台湾問題がある>

中国外務省は4月21日、アメリカが主催する気候変動サミットに習近平主席が参加すると発表した。サミットは22日から始まるが、一国の国家元首の会議参加が開催前日の「駆け込み参加発表」になるのは極めて異例で、唐突の感は免れない。

ジョー・バイデン大統領が習近平を含む各国首脳にサミットへの参加を招待した、と米政府が発表したのは3月26日。そこから4月21日までの約1カ月間、中国側はずっと回答を保留したままだった。それが、開催前日に参加発表となるとは、それは一体どういうことなのか。中国政府あるいは習主席本人が、ギリギリのところで参加を表明した背後には一体何かあるのか。

実はこの参加表明のわずか5日前、習主席が同じ気候変動問題をテーマにした別の国際会議に出席した。4月16日、彼はドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領を相手に、気候変動問題を巡ってオンライン方式の首脳会談を行った。会談を中国側が仕掛けたかどうか不明だが、バイデン大統領からアメリカ主催の気候変動サミット参加の招待を受けていながら、それとは別の「気候変動サミット」を先に行ったのは、誰が見てもアメリカとバイデン大統領に対抗する行動であろう。その時の習主席は、アメリカ主導の気候変動サミットを無視して自国中心の枠込みをつくる意気込みであるのかのように見えた。

しかしその一方で、中・独・仏三国首脳会談の当日、中国政府はジョン・ケリー気候変動担当米大統領特使と上海で気候変動問題に関する協議を行った。同じ日に同じテーマについて、独仏とアメリカの両方を引き付けて別々に協議するとはいかにもわざとらしいが、これは中国の伝統的交渉術の1つである。

中国ビジネスの場でも「同じ手口」

実はビジネスの場でも同じことがよく行われている。例えば中国企業A社はB社との商談をまとめようとした場合、時にわざとこのB社に見えるように、C社とも同じ商談を行う。その場合C社との商談はただのサクラで、本命のB社に対して自社の立場を強くするためのからくりにすぎない。「こちらの要求を呑んでくれないと、C社の方へいくぞ」と脅しをかけるのである。

中国と習主席は結局、これとは同じやり方で独仏との首脳会談をサクラにして自国の立場を強化しアメリカを脅したのであろう。だが、習主席はアメリカを脅して何を得ようとしたのであろうか。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ポンド下落、英中銀の利下げを確実視

ワールド

米国防権限法案、上院で可決 過去最大の9010億ド

ワールド

米財務長官、FRB議長候補ハセット氏への懸念を「ば

ワールド

ゼレンスキー氏「戦争継続が無意味と示す必要」、同盟
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story