自己弁護に追い込まれた「独裁者」の落ち目
習が上述の自己弁護を行なったもう1つの理由は、周先旺武漢市長の1月27日のCCTV(中国中央電視台)インタビューにあると思われる。
周はその時、初動段階の情報隠ぺいに対する批判に応えて、「情報公開の権限を上から与えられていない」と言って、責任が中央政府にあることを示唆して波紋を呼んだ。中央政府の最高責任者が習近平であることは周知の事実であり、これで習に対する不信感・批判が一気に広がった。
新中国建国以来の珍事
だからこそ習は2月3日の政治局常務委員会で「私は1月7日にすでに指示を出した」と言って、責任は自分にないことをアピールしたのだろう。しかしその意味するところ、中国共産党の最高指導者たる者と、1人の地方幹部との責任のなすりつけ合い、泥仕合である。共産党政権成立以来、初の珍風景だ。みっともない。習の権威と品位はここまで堕ちているのである。
さらに興味深いのは、政治局常務委員会という密室での習の講話が共産党機関誌「求是」によって公表されたことである。もちろん習自身の意向を受けたものであろうが、そこから分かるのは肺炎対策の初動段階での遅れや情報隠ぺいについて多くの人々が責任追及と批判の矛先を共産党総書記・国家主席に向けている、ということだ。そして習も自分が責任追及と批判の的になっているのを知っているからこそ、上記の講話をあえて公表して、全国民に対して自己弁護を行なったのである。
一国の最高指導者がこのような自己弁護に追い込まれたことは、すでにこの指導者自身の権威失墜の証拠以外の何ものでもない。しかし、習の場合、実はこの全国向けの自己弁護は逆に、彼自身をより一層の窮地に追い込んだ。
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