コラム

「パナマ運河売却」の香港富豪に激怒......中国経済ポピュリズムの愚かさ

2025年04月03日(木)17時35分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
中国

©2025 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<トランプが食指を伸ばすパナマ運河の重要港湾を、香港の李嘉誠が米投資グループに売却。中国ネットは官民が声をそろえて「売国行為」「国家への裏切り」と罵ったが>

香港の代表的実業家である李嘉誠(レイ・カーセン)が所有する「長江和記実業(CKハチソン・ホールディングス)」が先日、パナマ運河の重要港湾を含む世界の港湾事業を米投資グループに228億ドルで売却する合意を結んだ。中国の官製メディアからネットユーザーまでが声をそろえてこのことを「売国行為」「国家への裏切り」だと罵っている。

1928年に生まれ、幼少期に広東省から香港に移住。貧困の中から努力と商才で巨大な富を築き上げた李は96歳。李が生まれた時も、香港に移住した時も、共産中国はまだ存在していなかった。なのに「国家を裏切った」と非難するのはどこかおかしい。そもそも李の事業は国有ではない。


似たようなことは以前にもあった。リーマン・ショックで人々が不安に駆られるなか、2008年に民営飲料メーカーの中国匯源果汁(フイユアン・ジュース)を買収しようとしたコカ・コーラ社は、「中国の民族産業が外資に飲み込まれる」「中国の経済安全が深刻な脅威にさらされた」という苛烈な愛国世論にさらされた。コカ・コーラが提示した24億ドルという買収金額は匯源果汁にとっては破格だったが、中国政府はこの買収に干渉して中止させた。

買収が中止になった後、匯源果汁は赤字に転落。21年には上場廃止になり債務超過額は113億元(約2300億円)に。全中国を席巻した匯源のジュースは店頭からほぼ姿を消した。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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