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コラム
風刺画で読み解く「超大国」の現実 Superpower Satire
トランプのエルサレム首都承認で中東大炎上(パックン)
(c)2018 ROGERS─PITTSBURGH POST─GAZETTE
<米国内の支持者は喜ぶかもしれないが、現地イスラエル・パレスチナの情勢は決して良くならない>
火に油を注ぐ。英語の Pour gasoline on the fire とほぼ一緒だが、アメリカでは油はガソリンになる。さすが車大国!
70年間くすぶり続けたイスラエル・パレスチナ問題。ドナルド・トランプ米大統領が大使館を移し、エルサレムをイスラエルの首都と認めることが、まさにそれ。爆発を呼びかねない危険な行為だ。普通の国なら大使館がエルサレムにあって当然だと思われるかもしれない。政治・経済・文化の中心地だし、どの国も首都を決める権利はあるはず。イスラエルがエルサレムだと言うのに、否定するのはおかしい。人の家に上がって、寝室に座り込んで「ここがダイニングだ」と主張するような態度だ。
しかし、歴代米大統領がそんな不思議な状況を維持してきたのには理由がある。イスラエルとパレスチナの微妙なバランスを保つには、第三者の協力が必要だ。まず、圧倒的な軍事力を持つイスラエルは、ガザや西岸といった自治区を侵略しない。
一方、パレスチナ自治政府は自治区の統率によってイスラエルへの抵抗を管理する。そして、アメリカは(イスラエル寄りだが)なるべく中立的な仲介役を務める。鼎(かなえ)のように、三本の足によって地域の安定が支えられてきた。
それなのに、トランプは中立性を捨てた。東エルサレムを自国の首都に設定したいパレスチナ側の交渉人は「アメリカはもうパートナーでも仲介人でもない」、むしろ「トランプ政権が最大の問題になった」と、交渉の断念を宣言している。鼎の足が一本外れた場合、全てが崩れ落ちる可能性は十分考えられる。
ガザから西岸へと紛争の火種が飛ぶ。イスラエルが反乱を鎮圧すべく支配網を広げる。周辺国が巻き込まれる。爆発しなくても、やけどするシナリオはいろいろ思い浮かぶ。
漫画の中には、皮肉も込められている。油を注ぐ側のセリフ、This should help(これでよくなるだろう)は何を指すか。エルサレムの首都承認によって、アメリカ国内のユダヤ教徒や福音派キリスト教徒の票集めも、イスラエル支持者の機嫌も、そんな1人である娘婿のジャレッド・クシュナーとトランプの親子関係もよくなるかもしれない。でも、現地の情勢は決してよくならないだろう。
【ポイント】
70 YEARS OF ISRAELI-PALESTINIAN CONFLICT
70年にわたるイスラエル・パレスチナ紛争
U.S. EMBASSY MOVE TO JERUSALEM -- FLAMMABLE
エルサレムへの米大使館移転――可燃性
<本誌2018年6月5日号掲載>
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