コラム

中国の娯楽番組を駆逐した「裸の女王様」

2018年01月24日(水)19時10分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/李小牧(作家・歌舞伎町案内人)

©2018 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<昨年夏から秋にかけて、中国各地のテレビ局でバラエティー番組が軒並み放送停止に追い込まれている>

中国のテレビでは最近、「総芸節目(バラエティー番組)」が大人気だ。いや、正確には「人気だった」と言うべきか。

昨年夏から秋にかけて、各地でテレビ局のバラエティー番組が軒並み放送停止に追い込まれた。人気のトークショーでは、中国版マツコ・デラックスというべき辛口タレント金星(チン・シン)の番組が8月末に突然打ち切りに。中国漫才「相声」の人気タレントが司会の『今晩80後脱口秀(今夜、80年代生まれのトークショー)』も放送停止に追い込まれた。リアリティショーでもタレントが番組内で命じられたさまざまな「任務」クリアに挑む『極限挑戦』が放送できなくなった。

私も被害者の1人だ。約20年続いていた超人気トーク番組『鏘鏘3人行』が昨年9月、無期限休止になったのだ。13年間ゲストとして出演してきた私にとって、いわれなき失業だ。

「青少年の健全な成長に不利」「『視聴率英雄主義』に陥っている」と、もっともらしく理由は語られている。粛清の嵐の背景にあるのは言うまでもなく10月の中国共産党大会。開幕直前に駆け込みでいくつもの番組が放送停止に追い込まれ、番組の中には、党大会が終わるとすぐ放送再開できたものもある。

ただし、その「後台(黒幕)」まで考えている人間はあまりいない。私のみるところ、張本人は習近平(シー・チンピン)国家主席の妻で超有名歌手の彭麗媛(ポン・リーユアン)だ。

中国には趙本山(チャオ・ベンシャン)という大人気コメディアンがいる。しかし、趙はある時から干され、中国版紅白歌合戦『春節聯歓晩会(春晩)』に出演できなくなった。その理由は彭が趙を「下流芸人」と批判したから、と言われている。

中国の芸能界にはエリート出身で高学歴の「学院派」と、地道に芸を磨いてきた「草根(草の根)派」がある。彭は学院派を気取り、草の根派の芸人や番組をテレビから追放している。代わりに放送されるのは「清く正しい」共産党の宣伝番組だ。

彭は16年、『春晩』のプロデューサーに妹を送り込み、番組をコントロールした。ただ『春晩』は最近どんどん面白くなくなって完全に国民から飽きられている。草の根の力量に気付かない彭の姿は、まるでテレビに映った「裸の女王様」だ。

【ポイント】
春節聯歓晩会

毎年春節の前夜に放送される国民的番組。5時間にわたり歌やコント、漫才が繰り広げられ、再放送を合わせた視聴者数は10億人超

趙本山
遼寧省出身の国民的俳優・コメディアン。孤児だったのを見いだされ、90年の『春晩』出演で人気に。しかし現在はテレビから姿を消している

<本誌2018年1月30日号[最新号]掲載>

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国副首相が米財務長官と会談、対中関税に懸念 対話

ビジネス

アングル:債券市場に安心感、QT減速観測と財務長官

ビジネス

米中古住宅販売、1月は4.9%減の408万戸 4カ

ワールド

米・ウクライナ、鉱物協定巡り協議継続か 米高官は署
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 5
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story