コラム

ハイチで生死に関わる経験をしたベテラン写真家の「架空」プロジェクト

2017年01月18日(水)11時40分

From Maggie Steber @maggiesteber

<ハイチのドキュメンタリーを発端に世界的に知られるようになった写真家マギー・スティーバー。インスタグラムで発表するその最新作は、意外にも「架空の世界の出来事」だった>

 すでにこのブログで触れたが、情熱は写真家にとってもっとも大切な要素の1つである。それがなければ進化しない。それを持ち続けることは、偉大なる才能の1つにさえなる。今回紹介するマギー・スティーバーはそんな情熱を持つ写真家だ。80年代後半から、ハイチのドキュメンタリーを発端に世界的に知られるようになった大ベテランである。近年はフォトエディター、フォトコンサルタント、教育者としても名を馳せるようになってきている。

【参考記事】ニューヨークの地下鉄の匂いを掴み取る情熱の写真家

 今回、スティーバーの作品として焦点を当てるのは、"The Secret Garden of Lily LaPalma"(リリー・ラパルマの秘密のガーデン)という最新作。継続中のプロジェクトだ。彼女が今までの写真家人生の大半を費やしたドキュメンタリーではない。その要素も入ってはいるが、フィルム・ノワールや犯罪ミステリーの流れを取り入れた架空の世界の出来事だ。自らを刷新するために、さらに自らの写真を進化・成長させるために始めたという。だから、人にどう思われるかはまったく気にしていない、と。

 愛、生と死、闇と光などのテーマが混り合っている。極めて重要なのは、そうした大半の要素は、スティーバー自身が経験してきた、あるいは自ら感じている精神的なものの反映になっているという点だ。幾十にも変化する主人公リリー・ラパルマはマギーの分身そのものであるという。

 私が彼女と初めて会ったのは、1993年のポルトープランスだった。街のあちこちに血の匂いが漂っていたハイチ危機(編集部注:1991年に軍事クーデターが発生、内乱状態となり、国連の多国籍軍展開を経て1994年に軍政が終了した)のときだ。スティーバー自身も凄まじい恐怖を味わい、アメリカの諜報部員により生死の境で救出された経験までしていたはずなのに、笑顔を保ち続けていた。可能な限り、軍政で抑圧された人々に自らを溶け込ませ、取材中に知り合ったストリートチルドレンを身銭を切って学校に行かせようとした。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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