コラム

このシンプルさの中に、日系人のアイデンティティーが息づく

2016年02月09日(火)11時05分

東京・浅草寺の市場界隈の閉じたシャッター From Kevin J. Miyazaki @kevinmiyazaki

 写真には、しばしば意図していなくても、社会的現象や撮影者のアイデンティティーが付随してくる。才能ある写真家の場合はとりわけそうだ。日系アメリカ人4世のケヴィン・ミヤザキもその1人。生まれも育ちも米中西部のウィスコンシン州という彼は、エディトリアル・フォトグラファーであり、アーティストでもある。また、同州にあるミルウォーキー・インスティテュート・オブ・アート&デザインで教鞭もとっている。

 作品スタイルは、インダストリアルでコンセプチュアルな、ミニマリズムと言っていい。仕事ではポートレイト、食べ物、旅行関係の写真を多く撮っていて、無駄を省いたシンプルさが光っており、乾いた感じも漂う。

 一見したところでは、日本で学生運動の反動として70年代~80年代中頃に広告と雑誌がリードした"生活臭のない空気感"、言いかえれば、当時の日本人が勝手に思い描いていたアメリカのイメージに近いように思えるかもしれない。

 だが、そうした表面的な匂いとは裏腹に、彼の写真の多くには、人間の歴史そのものが持つ生活感が息づいている。インスタグラムについては、ミヤザキ自身、作品というよりは、ランダムに観察・記録するパーソナルなものと言っているのだが、それにもかかわらず、彼自身のアイデンティティーと、世代を超えた過去の記憶が見え隠れしている。

 たとえば、下で紹介する"Thinking about mountains"はそうした写真の1つだ。 撮影場所はシカゴ。日本の富士山とワシントン州にあるレーニア山とを思い描いて撮ったものである。ワシントン州は、彼の父方の祖母たちが日本から移り住んだ場所だ。その後、日系2世である父親は、ワシントン州を離れ、結婚した3世の母とともにウィスコンシン州に移って行った。

Thinking about mountains.

Kevin J. Miyazakiさん(@kevinmiyazaki)が投稿した写真 -

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story