東エルサレム「立ち退き」問題で激化する衝突
立ち退き政策自体は2008年から進められてきたものだが、昨年末から立ち退き政策が加速したのはなぜか。そこには、3月に選挙を控えたネタニヤフ首相の右派対策があっただろうが、加えてアメリカの大統領選挙の影響があったことは容易に推察されるだろう。昨年秋以降、イスラエル政府は、東エルサレム政策のみならず、入植政策を加速させていった。西岸、東エルサレムへの入植を積極的に認めてきたトランプ大統領から民主党バイデン政権にバトンがわたり、アメリカの対イスラエル外交政策が見直されることを見越して、イスラエルは駆け込み的に入植政策を強化したのである。
今年1月11日、ネタニヤフは西岸地区への800件の新規入植を許可すると発表した。それと並行して、2月頃からユダヤ人入植者とパレスチナ人居住者との間での小競り合いが頻発するようになった。西岸で入植者住民やその警備員によってパレスチナ人が襲われる事件が日常化したのである。
トランプからバイデンに変わることで、イスラエルが入植を駆け込みで進めたのには、入植政策に厳しいオバマ政権時代の記憶があるだろう。
歴代の米政権は、民主党であれ共和党であれ、基本的にイスラエルの西岸や東エルサレムへの入植政策には目をつぶってきた。だが、占領地への入植活動や併合といった変更は、国際法に違反している。
戦時の捕虜や傷病兵に対する人道的措置を定めたジュネーブ第4条約では、「被保護者(占領地の住民)は、すべての場合において、その身体、名誉、家族として有する権利、信仰及び宗教上の行事並びに風俗及び習慣を尊重される権利を有する」とされ、占領国が「被保護者に肉体的又は精神的強制を加えてはならない」ことはむろんのこと、「占領地域にある被保護者は、いかなる場合にも及びいかなる形においても、占領の結果その地域の制度若しくは政治にもたらされる変更......または占領国による占領地域の全部若しくは一部の併合によってこの条約の利益を奪われることはない」としている。そして、「被保護者を......個人的若しくは集団的に強制移送し、又は追放すること」や、「不動産又は動産の占領軍による破壊」は、基本的に禁止されている。
つまり、東エルサレムを含む西岸やガザなどイスラエルが占領した土地で、パレスチナ住民の家屋を破壊したり住民を強制的に立ち退かせたりすることは、国際法的に厳禁なのである。
米政権のジレンマ
こうした背景から、米政権は常に国際法とイスラエル支持政策の間でジレンマに立たされる。先に挙げた安保理決議478号(東西エルサレムの統一とイスラエルによる首都化に対する非難)で、アメリカは棄権はしたものの拒否権を発動するには至らなかった。また、それに先立つ決議465(1967年以降のイスラエルによる占領地への入植の禁止)では、反対も棄権もしなかった。しかし、レーガン政権以降オバマ政権末期まで、イスラエルを非難する決議案に対して、アメリカはことごとく拒否権を発動していった。1981年以降2016年12月までの35年間、イスラエルに関する安保理決議のうち採択されたものは19件だったのに対して、アメリカが拒否権を発動して成立しなかったものは32件もある。
そう考えれば、イスラエルがオバマ政権下で副大統領を務めたバイデン政権の誕生を危惧することがわかるだろう。オバマ政権は歴代の政権のなかではイスラエルに比較的厳しく、入植政策にも反対の姿勢をとっていた。そうしたスタンスがイスラエルを和平から一層遠ざけることになったのだが、トランプという親イスラエルを公言してはばからない大統領の誕生を前に、オバマ大統領は2016年12月、安保理決議2334号に棄権した。イスラエルの入植政策を非難するこの種の決議に、拒否権行使ではなく棄権で採択に目をつぶったのは、オバマ政権が取りえたぎりぎりの、イスラエルの国際法違反への批判だったのだ。
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