東エルサレム「立ち退き」問題で激化する衝突
だが、実際バイデン政権がトランプ時代に築いた対イスラエル関係を反故にするかといえば、そのようなことはなかった。ブリンケン国務長官の親イスラエル姿勢はよく知られているが、今のところバイデン政権の中東和平に対する優先順位は低い。パレスチナ支援も、USAIDによる支援を復活させたりパレスチナ代表部との外交関係を再開させたりといった進展はあるものの、多くは期待できないのが現状だ。
今回の衝突についても、米国務省は「(イスラエル、パレスチナ)双方が暴力の沈静化に指導力を発揮すべし」と、喧嘩両成敗的な、当たり障りのない発言をするにとどまっている。イギリスの駐エルサレム領事が「東エルサレムは占領された土地であり、イスラエルの東エルサレム併合は非合法だ」というイギリス政府の立場を明確にしているのと、対照的だ。
イスラエルはこの問題を「ただの不動産問題」と矮小化しているが、東エルサレムという、イスラーム教徒にとっても重要な聖地で、しかもラマダン月のさまざまな宗教儀礼を冒涜するような形で行われたイスラエル警察・治安機関の暴力は、現地のパレスチナ人社会だけでなく、中東・イスラーム諸国で幅広い批判を呼んでいる。
「パレスチナへの連帯」など机上の空論に成りはて、イスラエルとはウィンウィンの経済関係だけ追求すればよい、という風潮に流れてきた昨今のアラブ諸国だが、今回の事件、特にアルアクサー・モスクでの礼拝者に対するイスラエル警察の襲撃には、強い非難を表す国も少なくない。市民による反イスラエル・デモがイスラエル大使館前で連日展開されているヨルダンは、駐アンマン・イスラエル代理大使に抗議の意を伝えた。政府が昨年イスラエルと単独和平を結んだUAEも、イスラエルに暴力行使の停止を求めている。
占領地住民のフラストレーション
だが、こうした衝突を収め、イスラエル側に入植の停止を求めていくことのできる指導者が、肝心かなめのパレスチナ側にいるのかといえば、はなはだ心もとない。今回の事件発生の直前(4月30日)には、アッバース・パレスチナ自治政府大統領が、5月22日に実施を予定していた自治区立法評議会選挙を延期すると発表した、という状況がある。パレスチナ自治区での選挙は、大統領選挙は2005年以来、評議会選挙は2006年以来棚上げにされており、アッバース政権は民意を問わないまま長期政権を続けている。大統領としての正当性が問題視されるなか、ようやく選挙にこぎつけたと思ったら、再度延期。パレスチナ人の間での対政府不信も一層強まっただろう。
占領地の住民の間には、長らく、代弁者不在のなかでじわじわと悪化していく現実に、フラストレーションがたまり続けてきた。数年前にはその鬱屈が、ナイフ・インティファーダという形で暴発したこともあった。今回の衝突が鬱屈を沸点に突き上げるのか、それとも行き場のない熱湯が煮え続けるのか。
2002年に制作されカンヌ国際映画祭審査員賞をとったパレスチナ映画「D.I.」は、最後沸騰しピーピー音を立てる圧力鍋を映して終わる。鍋は今も放置されたままだ。
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