UAE・イスラエル和平合意は中東に何をもたらすのか?
アメリカでバイデン政権が成立したら、トランプが再開した対イラン経済制裁が再度撤回されるかもしれず、来るべき「アメリカの非協力」に対して強力な「反イラン勢力」とつないでおきたい。米議会が対UAE武器輸出の承認を渋るなら、イスラエルとの友好関係を理由にゴーサインを出させたい。すでに進めつつあるコロナウイルス感染防止に関わる医療、技術、情報の共有を、さらに本格化したい。コロナ後の中東で石油需要や人の移動が激減したとき、石油産業や観光以外に主要産業のない湾岸アラブ諸国は、非石油分野で新たな生存戦略を見つけなければならない。
UAEの対イスラエル和平が「パレスチナ抜き」であることは、一向に不思議ではないのだが、問題は「パレスチナ抜きでけしからん」と言ったところで、どの国もそれを阻止できないことである。当のパレスチナ自治政府ですら、批判を繰り返すしか手がない。イスラエル一強のなかで、どのアラブ諸国もパレスチナ問題でイスラエルに対抗する能力はもちろん、意志もないのが現状だ。
だが、それは今に始まったことではない。30年前にイラクがクウェートを占領したとき、「イスラエルのパレスチナからの撤退とイラクのクウェートからの撤退を一緒に行おう」と提案した、いわゆるリンケージ論がパレスチナ人の歓心を買ったのは、そんな見え透いたこじつけですら希望を与えるという、どの国もパレスチナのために何もしてくれないというフラストレーションの裏返しに他ならなかったからだ。
置いてけぼりのパレスチナ人とそれに同情する人々が、国家に抱く不信感の増大、そしてそれがテロや暴動につながりかねない、という議論は、これまでも長く繰り返されてきた。確かに、ビン・ラーディンが1996年に発出したアメリカ軍に対する宣戦布告では、パレスチナを筆頭にアメリカがムスリムにしてきた数々の悪行を並べて、攻撃理由としている。
二国家案の終焉
だが、テロや暴動よりも、もっと深刻な問題をイスラエルは抱え込むことになる。今回の和平やその根幹となるトランプ政権の「世紀の取引」が土台にしているのは、イスラエル・パレスチナ二国家案の終焉だが、イスラエル支配の浸透するパレスチナでは、すでに実質的に一国家状態を強いられているといっても過言ではない。それを正式に「イスラエルという一国家」にすることは、アラブ系イスラエル人も含めてパレスチナ人を「二級市民」に置く国家を制度化する、ということだ。
米カーネギー財団中東センターのマルワン・ムアッシュルは、その論考で以下のように言う。「問題は、二国家案が実現できるか、できるとすればいつか、ではない。今の現実から、どのような一国家案が生まれてくるかだ。(人種、宗教、出自を問わず国民はすべて平等とする)民主主義システムか、それともアパルトヘイトか」。
パレスチナという民族自決の権利がないがしろにされ続けていることは、すでに喫緊の問題ではなくなっているのかもしれない。だが、一つの国に住む、普通の人間としての平等な権利をどう獲得するかという、より深刻な問題が眼前にある。
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