イラクで再現される「アラブの春」
最後に挙げられる特徴が、デモ隊の圧倒的な自由さだ。与野党かまわず、相手国かまわず自由に批判する、その政治的自由さの赤裸々な表現に加えて、デモ活動自体が実に自由気ままである。タハリール広場に寝泊まりしてそこを占拠するにとどまらず、広場に隣接する廃墟となった高層ビルの元トルコレストランを占拠し、旗と垂れ幕とポスターで、見事なモニュメントに変貌させてしまった。
そしてそこに集う若者たちは、政治スローガンを叫ぶだけではない。踊る、歌う、時には恋人にプロポーズしたり、子供の誕生日パーティをしたりする。踊っているなかには、対峙していたはずの治安隊員が一緒になったりしている。
参加者の顔ぶれもまた、さまざまだ。なにより、女性の参加が多い。ある友人が送ってくれた写真には、「(20)19年革命のジャンヌダルク」というキャプションがつけられていた。
その姿からわかるように、参加者のなかに大学生はもちろん、中、高校生が多いのも驚きである。10月27、28日には市内各地の中・高校から集団で学生がデモに参加する様子が伝えられていたが、まるでピクニックのような高揚感が伝わってくる。その一方で、「インスタに挙げる写真を撮るためだけに、トゥクトゥク(東南アジア発祥の三輪タクシー)を使ってタハリールに来ないでね」と、参加者の「常識」を求める呼びかけがなされたりもする。
参加者が多いと、それぞれの得意分野に応じて役割分担が決まってくる。デモ隊に医療班や写真班がいるのにはさほど驚かないが、投げられた催涙弾をとっさに遠くに投げ返すという「ゴールキーパー」が活躍している。飛んできた催涙弾を投げ返すワザは、タイや香港のデモ隊でも見られたが、催涙弾でも心臓や頭を直撃すれば命に係わるからだ。また、「レーザーポインターチーム」というのがいるのだが、これは、治安部隊の夜間攻撃を妨害する光線を発射するチームだ(実際の映像は、映画『シン・ゴジラ』の内閣総辞職ビームそっくりである)。同様の目的のために、花火大会も開かれる。周辺のおばさんたちはデモ隊に食事の差し入れをするし、デモ隊は食べ終わったゴミをきちんと掃除して広場を綺麗に保っている。
これは、どこかで見た光景だ。そう、8年前、エジプトのカイロ、同じくタハリール(解放)広場と名付けられた場所で、当時のムバーラク政権にノーを投げつけて結集したエジプト人の若者たちと同じである。エジプトの「アラブの春」は、2年間の「革命後」の時代を経て、再び軍事政権に戻ってしまった。だが、2011年1~2月にエジプト人のデモ隊たちが実践したことと掲げたスローガン(「民衆は政権の崩壊を望む」)は、今イラクで再び繰り返されている。
イラクだけではない。全く別の文脈、理由ではあるが、レバノンのベイルートでも今反政府デモが展開されている。今年5月には、スーダンで長年の独裁政権を倒したのも、民衆パワーだった。
エジプトやシリアが辿った道を見ても想像できるように、イラクでの「革命」も、容易には成功しないだろう。政権側は、力をもって抑えつける決意をするだろう。だが、間歇(かんけつ)的にではあっても、「春」を目指す若者の行動は、続く。
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