コラム

ISISの「血塗られたラマダン」から世界は抜け出せるか

2016年07月11日(月)14時30分

 しかし、二年前とは大きな違いがある。まず攻撃されたカッラーダは、シーア派商人が多いとはいえ、買い物客は宗派に関係なく多く集まる、中流家庭の行きつけの場所だったことだ。そして、ラマダン明け前日となれば、翌日からの休日に備えて普段以上に買い物に集まる庶民が多かった。ついでに、サッカーのユーロカップをテレビで観戦する客も、多数いた。痛みと嘆きを共有するのは、スンナ派もシーア派も、キリスト教徒もクルド人も、一緒だ。

 つまりISは、戦後の特権階級やそれを象徴する宗教施設を攻撃ターゲットにしたのではない。大晦日のアメ横か、築地場外市場を攻撃したようなものだ。

 そこに、ISに引き裂かれたイラクの宗派社会が、再び一体性を回復する契機を見ることはできないか。残念ながらそのときの「宗派共通の敵」は、ISとともに現政府であるかもしれないが。

プロフィール

酒井啓子

千葉大学法政経学部教授。専門はイラク政治史、現代中東政治。1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。アジア経済研究所、東京外国語大学を経て、現職。著書に『イラクとアメリカ』『イラク戦争と占領』『<中東>の考え方』『中東政治学』『中東から世界が見える』など。最新刊は『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』。
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