ISISの「血塗られたラマダン」から世界は抜け出せるか
つまりISは、既存の体制、社会に反発して「何か」を成し遂げたい人たちが、その「何か」をそのなかに映し見る、そういう存在なのだろう。そしてその「何か」に、イスラームの名のもとに「理」を与えてくれる。「造反」を掲げた若者たちに、それに「ジハード」の名を与え、それを実践するためにシリアやイラクに「参戦」を呼びかける。そして、「参戦」しなくても、「ジハード」は自分の社会のなかで――パリやブリュッセルやダッカやメディーナで――できるぞと、ハードルを下げる。
そう考えると、ISの領域が減少していることは決してISの影響力を減退させることを意味しない。むしろISの出現によって自らの「ジハード」が正当化されたと考えた人々が、今後世界各地で独自に、自分たちの判断で行動を起こす可能性は、どこにでもある。
では、ISが入れたジハード正当化のスイッチは、どうやって消せるのだろうか? 領域が減っても攻撃が減らないことを考えれば、それは軍事攻撃でないことは明らかだ。では何をすれば良いのか? その解答は、まだない。
だが、スイッチが入り続ける理由を見つけることは、できる。ホームグロウンが増えるということは、彼らのスイッチが入る原因もまた、地元社会にあるということだ。
【参考記事】民族消滅に近づくイラクの少数派
イラクでISが北西部の諸都市を制圧できたのは、そこが戦後のイラク政治で辺境化されてきたからだ。そしてそれらの諸都市をISから奪回する際に、露骨な宗派性が表出されたからだ。おりしも、湾岸地域でのイラン対サウディアラビアの覇権抗争が高まりつつある時期である。イラクでの対IS軍事作戦に、イランのイスラーム革命防衛隊司令官が堂々と口を出す。それに対してサウディアラビア系の新聞では、「イラクのシーア派部隊はイラク人の顔をしたイラン人だ」などと、ヘイトまがいの差別的コメントが横行する。
なによりも、政府自体が腐敗、汚職、権力抗争に埋没し、政治改革を謳って成立したはずのアバーディ政権は機能不全に陥っている。政府はファッルージャ奪回を大々的に宣伝し、「次はモースルだ!」と意気軒昂な姿勢をみせるが、すでに猛暑に襲われているイラクでは、電力不足は相変わらず、経済も停滞したままだ。政府不信を募らせる国民は、連日街頭デモに集まるが、のれんに腕押しである。そんななかで起きたのが、冒頭のカッラーダでの事件だった。政府の無策ぶりが改めて露呈された。
そのイラク人のルサンチマン(怨恨)が、またISの「肥やし」になるのだろうか? 2014年にISがモースルに進撃したときのように、シーア派とスンナ派がともに自派社会を守ることに走って、国を分断するほどの宗派対立を再び引き起こすのだろうか?
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