コラム

カルロス・ゴーン逮捕、アメリカでどう報じられたか

2018年11月20日(火)14時00分

企業経営者の強すぎる権力はアメリカでも様々な問題を生んでいる Steve Marcus-REUTERS

<ゴーン会長逮捕のニュースはアメリカで、企業経営者の強大な権力への批判だけでなく、グローバル企業のトップが日本だけの事件で逮捕されることへの困惑と共に報じられた>

日産三菱・ルノーのカルロス・ゴーン会長の逮捕劇については、アメリカでは19日月曜の週明けに飛び込んできたニュースですが、それほど大きな扱いにはなっていません。地上波に当たる三大ネットワークやケーブルテレビでは、ほとんど報じられておらず、CNBCなど経済専門局が第一報と簡単な論評を伝えているだけです。

現時点では、アメリカでの見方は2種類に分かれます。1つは、企業経営者の強大な権力が起こした腐敗という見方です。つまり、日本の検察当局の捜査を受けて、その「犯罪」の原因を推測したり、類似の事件について論じたりといったものです。

例えば、19日午前中のCNBCには、アメリカの「ビッグ・スリー」つまりGM、フォード、クライスラーの3社で副社長を務めたことのあるボブ・ルッツ氏が登場していました。業界の生き証人とでもいうべきルッツ氏は、「カルロス・ゴーンは、恐ろしいほど優秀な頭脳の持ち主で、自動車業界の隅から隅までを知り抜いた男」だとしながらも、「それでもCEOの権力に溺れて転落したのだろう」と批判していました。

また、この日の「LAタイムス(電子版)」が掲載したマイケル・ヒルツィク氏のコラムでは、やはり経営者の暴走を批判する文脈で、この事件を扱っていました。ピュリッツアー賞を受賞したジャーナリストであるヒルツィク氏は、近年の企業経営者には強大な権力が与えられ過ぎているとして、例えばフェイスブックのマーク・ザッカバーグ会長の場合は、上場企業でありながら、個人で過半数の議決権を保有しているために、暴走に歯止めがかけられないと指摘、ゴーン氏の事例も同様だとしていました。

ヒルツィク氏は、今回の容疑が事実であればという仮定の上で、2002年に発生した「タイコ社のスキャンダル」との比較をしていました。この「タイコ社の事件」というのは、私の住んでいる町内に同社の本社があることもあり、記憶に生々しい事件ですので、ご紹介しますと、デニス・コズロウスキーというCEOが強大な権力を手中にして暴走したという点で、確かに似ています。

タイコという会社は、そもそもは投資会社であったのが、70年代にスプリンクラーなど防火システムの企業を買収して製造業に転じた後は、様々な企業を買収して企業規模を拡大していった会社です。コズロウスキーという人物は、たたき上げの経営者として90年代にトップに上りつめると、さらに多くの企業を買収してはタイコに合併させて企業を拡大したのです。

ところが、2002年に「役員報酬以外のヤミ給与」や「巨額な私的流用」が明るみに出て大騒動になりました。特に、マンハッタンにあった自宅のアパートメントに「6000ドル(68万円)」相当の「シャワーカーテン」を社費で付けさせた事件は、当時大きくメディアで取り上げられたのを記憶しています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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