コラム

カルロス・ゴーン逮捕、アメリカでどう報じられたか

2018年11月20日(火)14時00分

その時のコズロウスキーの弁明は「私は引退したかった。でも、会社が私に去られては困ると言うんだ。で、私を引き止めるためには何でもすると言う。でも、上場企業だから規定の報酬しか払えない、そこでコズラウスキーの引き止めという企業の利益のためには、仕方ないので報酬外の処遇をするので受けてください、そう頭を下げてきたので、私としては断れなかった」というものでした。

こうした点に関しては、仮に容疑が事実であるのなら、ヒルツィク氏の言うように、ゴーン会長の事件は、このコズラウスキーの事件に類似していると言えそうです。ちなみに、コズラウスキーは裁判の結果、禁固刑に処せられて2005年から14年まで服役しています。

一方で、捜査の全体に疑問を投げかけるコメントもありました。NBCの記者で、長年デトロイトをベースに、米国自動車産業の栄枯盛衰を目撃してきたフィル・ボー記者は、CNBCテレビで非常に困惑した表情を浮かべ、「ルノー、日産、三菱の三社連合のトップを務めるゴーン氏に対して、日本の日産が告発しただけで日本の検察庁が逮捕するというのは異様です。経営に問題があるのなら、国際的な第三者委員会などの調査が必要です。そうした第三者的な調査もなしに、いきなり逮捕というのは理解できません」と述べていました。

確かに、アメリカ的な価値観では、親子関係のある企業グループは連結して一つの企業体として見るべきであり、グループの一つに過ぎない日産が内部告発しただけで、グローバル企業のトップが逮捕されるとか、解任されるというのは企業のガバナンスとして不自然に見えるのは事実です。

このように、アメリカには「経営者の腐敗」という観点で厳しく見つめる視線と同時に、グループ企業の総帥に対して、グループを構成する一企業が独断でローカルな国の捜査当局に捜査協力している状況への違和感もあるわけです。

アメリカの場合、北米日産という巨大な企業体が、製造拠点としてもまた販売サービス拠点としても多くの雇用を創出しています。その雇用が揺らぐような場合、また株主が不利益を被ったと感じて訴訟を始めた場合は、日本、フランスとは別の利害当事者として、今回の事件に関わってくる可能性も十分にあると考えられます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story