コラム

トランプ政権の暴露本が、ここまで話題になる理由

2018年01月09日(火)14時20分

トランプ本人が「激しく反発」したことも逆効果に Yuri Gripas-REUTERS

<トランプの悪評はこれまでにも様々な形で報じられてきたが、多くの政権内部の人々のインタビューに基づく今回の暴露本は、意外なほどの反響を生んでいる>

今月5日に発売された、ノンフィクション作家のマイケル・ウルフによる『Fire and Fury: Inside the Trump White House(炎と怒り、トランプ政権ホワイトハウスの内幕)』という新刊が大変な話題になっています。年初に一部がリークされると話題が沸騰し、当初9日の予定だった発売日を4日繰り上げての発売となったのですが、あっという間にアマゾンでは「全書籍の1位」になったかと思うと、一気に「品切れ」になってしまいました。

内容については、「大統領は当選するつもりではなかった」とか「ホワイトハウスの人々は、大統領の能力を疑問視している」といった「部分的な紹介」がセンセーショナルな形で報じられています。ですが、冷静に考えてみると、トランプ大統領とその周辺に関する「悪評」というのは、以前から様々な形で出ていたわけです。

ですから、アメリカの一般読者は「ホワイトハウスの内情」をどんなに積み上げても、そうは簡単に面白がったり、飛びついたりはしないはずです。それにもかかわらず、この本が一気に大ヒットしたことには、特殊な理由があるように思われます。

1番目は、相当なボリュームのインタビューに基づいているということです。当初の企画は「トランプ政権が全面協力」した「政権最初の100日間のドキュメント」だったということで、途中まではかなり自由に取材ができたようです。ウルフがCNNで語っていたところでは、ホワイトハウスにいた時のスティーブ・バノンだけでなく、大統領顧問のケリーアン・コンウェイにしても、ホープ・ヒックス広報部長にしても「本書の企画に全面協力するように」と周囲に指示していたそうです。

結果的に、2017年7~8月に人事が大きく動いた中で、作者のウルフは「政権に距離を置く」ようにスタンスを変えたそうですが、そこまでに相当な「仕込み」がされていたのは事実のようです。

2番目は、そもそもこのウルフという人物が、FOXニュースの内情にかなり食い込んでいたということがあります。それは、2008年にFOXを含むニューズ・コーポレーションの総帥ルパート・マードックの伝記を書いたことが契機となっているようです。FOXニュースというのは、アメリカの保守系メディアですが、そのFOXに寄り添うことで米政界におけるトランプの立ち位置について、かなり正確に見ることができているように思います。

少なくとも、リベラル系の「最初から一本調子のトランプ批判」というアプローチよりは、はるかにリアリティがあるだけでなく、読み物としても「いかにも見てきたような」書き方が成功していることは言えると思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾、対米輸入2000億ドル増を検討 LNG購入拡

ビジネス

アングル:米金融業界首脳、貿易戦争による反米感情の

ビジネス

日経平均は急反発、米関税90日間停止を好感 上昇幅

ビジネス

ミネベアミツミ、芝浦電子にTOB 1株4500円
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた考古学者が「証拠」とみなす「見事な遺物」とは?
  • 4
    【クイズ】ペットとして、日本で1番人気の「犬種」は…
  • 5
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 6
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    毛が「紫色」に染まった子犬...救出後に明かされたあ…
  • 9
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 10
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 9
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 10
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story