コラム

伊勢志摩サミットの「配偶者プログラム」はとにかく最悪

2016年06月09日(木)19時10分

Toru Hanai-REUTERS

<日本でサミットなどの国際会議が開催されるたびに繰り返される、首脳配偶者を「豪華に」おもてなす勘違いプログラム。特に今回の伊勢志摩サミットでは参加者も少なく、内容も最悪だった>(写真は伊勢志摩サミットのプログラム)

 2008年の洞爺湖サミットの際に福田貴代子首相夫人(当時)が主宰した「配偶者プログラム」で、十二単の着付鑑賞や豪華な茶会という内容が悪評を買ったのに続いて、2010年のAPECでも菅伸子首相夫人(当時)による「坐禅体験」とか「ハイテク丹後ちりめんファッション」など、「社会性の欠如」した企画が続いたことについては、このコラムで厳しく批判してきた通りです。

 伊勢志摩サミットでは安倍昭恵夫人が何らかの改革してくれるのではと期待しました。しかしサミット参加首脳9人のところ、配偶者プログラムへの参加者は主宰の安倍夫人を含めて4人だけという結果に終わりました。安倍昭恵氏の他には、EUの事実上の元首であるトゥスク議長のマウゴジャータ夫人、カナダ・トルドー首相のソフィー夫人、そしてドイツのメルケル首相の夫君であるヨアヒム・ザウアー氏だけでした。つまり半分も参加しなかったのですから、失敗どころではありません。

 とにかく、この種の「配偶者外交」あるいは首脳外交に付随した文化交流というのは、現在では「社会貢献」というポリシーで行うのが国際常識になっています。格差や難病などの問題、あるいは環境や資源の問題といった世界共通のテーマを選びながら、その土地で頑張っている人々を支援しつつ、人類共通のメッセージを発信するというのが「当たり前」なのです。

 それにもかかわらず「真珠とグルメ」という企画で行われたというのは、一体どういうことなのでしょうか?

【参考記事】増税延期に使われた伊勢志摩「赤っ恥」サミット(前編)

 この点に関してはこのコラムで、洞爺湖サミットの「首脳夫人外交」の事務方を務めた高橋妙子氏という外交官の証言を批判したことがあります。高橋氏は「首脳達は通常一日中会議室にこもって議論をしていて、昼食や夕食もワーキング・ランチやワーキング・ディナーになるので、配偶者を別途おもてなしするためのプログラムを用意するのが普通です。それを『配偶者プログラム』と呼びます。」と説明しています。

 つまり、「首脳が『仕事』をしている間に、配偶者には『別途おもてなし』をする」という保守的な、そして国際常識から乖離した発想が見えるわけです。ですが、その後調べてみたところ、高橋氏はミンダナオ島の政府軍とイスラム武装勢力の「和平調停」に奔走した日本外交官の1人で、熱意を込めて外交の実務に生涯を捧げた方だと知りました。

 実は高橋氏は2011年に逝去されており、もしかしたら激務が外交官の生命を奪ったのかもしれず、また2008年の「配偶者プログラム」でも、保守的な前提で企画が動くなかで、高橋氏には人に言えない苦労があったのかもしれません。そう考えると、同氏の名前を挙げて批判した過去のコラム記事に関しては申し訳ない思いもするのです。ですが今度こそ外務省は猛省をして、以降はこのような失態を繰り返さないようにすべきと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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