コラム

伊勢志摩サミットの「配偶者プログラム」はとにかく最悪

2016年06月09日(木)19時10分

 今回の「伊勢志摩配偶者プログラム」は最悪でした。日本国内では「不況の中、観光産業のPRになればと藁をもつかむ思い」があったのは理解できます。ですが、この「グルメと真珠」という組み合わせは、国外から見れば「贅沢な先進国の首脳配偶者が贅沢な観光を楽しんでいる」としか見えないのです。

 国のトップである首脳の配偶者にグルメツアーを提供するのは「華やかで結構」というイメージがあるのかもしれませんが、それではダメです。どうしてダメなのかというと、東京都の舛添知事がファーストクラスやスイートルームを使ったというように、公私混同だからダメというのとは少し違います。それは「格差の象徴」になるからです。

 日本でもサミット反対のデモがないわけではありませんが、多くの場合は安保絡みの反対で、サミットが格差の象徴という厳しい批判があることは、日本では実感できないかもしれません。ですがG7に関して言えば、米欧で行われる際には、必ず格差反対の大きなデモが起こります。例えば昨年ドイツで行われたエマウル城サミットの際には、3万人規模の反対デモが行われ、ミュンヘン市内は大きく混乱しました。

【参考記事】「デジタルデフレ」こそ、世界経済が直面するリスク

 多くの首脳配偶者が参加を見送ったのは、こうした緊張感の中では、とてもではありませんが「真珠とグルメ」などという企画には参加できないからです。そして、そのような批判を受けるようなイベントに関しては、自国の政権に対して批判材料が欲しいメディア以外は、絶対に取り上げないでしょう。

 それではやってもムダなのです。参加した首脳の配偶者3人は喜んでくれたかもしれませんが、せっかくカネをかけて、神経を配って企画しても、各国のメディアは「良かれ」と思って無視したはずです。と言いますか、無視せざるを得ないのです。ということは、結果的に地元の観光産業振興にもならないのです。

 さらに言えば、安倍首相をはじめ、多くの首脳が格差是正のために財政規律を緩めてでも対策を打とうとして討議を続けていた一方で、配偶者には「真珠とグルメ」では、G7本体の論議の足を引っ張っているとすら言えます。

 G7がいつまで続くか分かりませんが、今後もG20やAPECなど日本を舞台とした首脳外交のイベントは何年かに一度は回ってきます。この種の単純で致命的なミスは、とにかくやめていただきたいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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