コラム

古市憲寿氏が指摘する、日本型コミュニケーションの「非生産性」

2016年01月14日(木)19時00分

 そう考えると、この上下ヒエラルキーの確認という問題は、「下」への束縛だけでなく、ある種の格好で管理者の心理も束縛していると言えるでしょう。「フレンドリーな関係」の維持コストとしての儀式的なコミュニケーションというのは、何も生まない一方で関係者全員にコストとしては重くのしかかっているのです。

 こうした上下ヒエラルキー、そしてその確認作業としてのコミュニケーションの儀式性ということは、日本社会の生産性を大きく毀損するばかりか、より若い世代の、より新しい発想に基づいた社会の改革を阻害しています。そう考えると、古市氏の指摘は、単に「手書きが面倒」とか「折り返しの電話で時間を取られる」といったことを越えて大切な指摘を含んでいると思うのです。

 問題は手紙や電話だけではありません。さらに「対面型コミュニケーション」というものが大きく日本社会の生産性を奪っています。「下から上への説明」や「ネガティブ情報の報告」は「出向いて直接行う」のが正しく、その際の移動というコスト、さらにそれに伴う煩瑣な謝罪行動や上下関係の確認コミュニケーション、そして時には飲食を伴う膨大な時間とカネの浪費、こうしたコストによって日本経済は大きく消耗し、そこに生きる個々人も大きく消耗しているということに気づくべきだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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