コラム

「トランプ旋風」にダマされるな!

2015年08月11日(火)11時40分

 理由は簡単で「どうして戦闘で捕まった人間が英雄になるのか?」というものでした。確かに捕虜になるというのは、戦闘で敗北したわけです。例えば旧日本軍の場合は戦陣訓の中に「生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず」という一節があり玉砕や自決などを強いる思想につながったのですが、トランプ氏の場合はもっと単純で、「負けた人間を英雄視するのはタテマエ主義で嫌いだ」というのが動機のようです。

 ですが、これはアメリカの軍の規律の背景にある「捕虜と不明米兵、傷病兵は戦争の英雄である」という思想に反するわけです。これは大変な反発を受けました。この一言だけでも、トランプ氏は「真剣な候補ではない」と見ていいと思います。

 2つ目は今回のテレビ討論の冒頭シーンです。開始早々に司会者が、「共和党の指名獲得から外れた場合に無所属出馬の可能性を排除しない人はいますか?」という質問を一斉に投げかけたのですが、これに対してトランプ氏は1人だけ挙手をしました。

 これは大変深刻な意味があります。というのは、仮に有力候補が指名争いに漏れた場合に無所属出馬をしてしまうと、分裂選挙になるからです。例えば、1992年のブッシュ(父)や、2000年のゴアといった候補たちは、ある種の分裂選挙の結果、無所属候補に票を食われて落選しています。この質問に対してイエスの挙手をするというのは、反党的な候補と言われても仕方がありません。

 3つ目は、テレビ討論の後で飛び出したものです。討論の司会は、FOXニュースの人気キャスターであるメジン・ケリーだったのですが、トランプ氏は彼女の司会ぶりが気に入らなかったようで、「目が血走っていて、それからどこかから血が出ている感じだった」という言い方で非難したのでした。

 この発言は各方面の怒りを買いました。というのは、発言を普通に聞くと「女性の生理に関して揶揄している」ように聞こえるからです。本人は「そんな意図はない」として否定していますが、同じ共和党の大統領候補であるカーリー・フィオリーナ氏は、「女性として許せない」と激怒していますし、「大統領候補としての品格に欠ける」という非難が殺到しています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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