「高等教育無償化」でイノベーションは生まれるか──海外と比べて見劣りするのは「エリート教育」
図3で示した国のうち、国名の前に入っている数字は、ダボス会議(世界経済フォーラム)で示された「世界で最もイノベーションが起こっている10ヵ国」(2017-2018年度)の順位です。ここからは、ランキング上位の国のほとんどが高等教育向けの予算配分の高い国に集中していることが見て取れます。
そのなかにあって、8位の日本は3位のイスラエルとともに、例外的に高等教育向けの予算配分が低いなかでランキング入りしている国です。好意的に解釈するなら、これは「限られた予算・資源のなかで成果を出す」という日本の力を示すものといえるかもしれません。
しかし、京都大学の山中伸弥教授によるES細胞の開発に代表されるように、日本のイノベーションは一部の天才の個人的な努力の賜物であることがほとんどで、それを組織的に生み出す体制は必ずしも十分ではありません。「圧倒的な物資不足は精神力で乗り切れ」と言わんばかりの政府の姿勢が、戦前から変わっていないようにみえるのは私だけでしょうか。
いずれにせよ、もし継続的なイノベーションを求めるなら、この他国とのギャップを再検討することから始めるべきで、そこにおいて「無償化」の優先順位が高いかは大いに疑問と言わざるを得ません。
高等教育の普及の光と影
政府は「高等教育の充実」を強調しますが、少なくとも「普及」という観点からみれば、日本のそれは多くの国を凌ぎます。図5は、25歳から34歳までの人口に占める、高等教育を受けた割合を示しています。日本ではこの年代の約60パーセントが高等教育を受けており、先述のダボス会議のランキングに登場した他の国より高い水準にあります。
ただし、「他国以上に高等教育が普及していること」は、先述の「予算割合の低さ」と結びつくことで、「一人当たりへの教育投資の減少」をもたらします。文部科学省によると、日本の場合、2009年段階の在学者一人当たりの公的な教育支出(機関補助)は、初等・中等教育では7779ドルで先進国平均(7745ドル)とほぼ変わりませんでしたが、高等教育では6102ドルで、こちらは先進国平均(8810ドル)を大きく下回りました。
つまり、日本では「大学や学生が多いこと」と「高等教育向けの予算が少ないこと」がかみ合った結果、学生一人ひとりにかけられるコストが乏しいのです。言い換えれば、「質より量」になりがちといえます。
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