「高等教育無償化」でイノベーションは生まれるか──海外と比べて見劣りするのは「エリート教育」
「質より量」が日本の方針というなら、それでもいいでしょう。しかし、くどいですが政府はイノベーションを生む教育・研究を求めます。つまり、政府の言い分は「質も量も」という、ないものねだりにしか聞こえません。
従来以上に「質の向上」を図るなら、大学の数を減らすか、資金を増やすことが避けられません。しかし、いずれも困難なことは目に見えています。いずれかの道に進むことは、それこそ「政治決断」がなければできないことです。
この構造的な問題を無視したまま、官邸主導でとってつけたように打ち出された「無償化」は、低所得世帯の学生にではなく、その人たちを受け入れる大学に授業料などを提供するもので、学生不足に悩む主に地方の大学にとって(必ずしも多くないものの)事実上の補助金にはなり得るでしょうが、少なくとも政府文書で暗示されているイノベーションや競争力との直接的な関係は不明なままです。
「無償化」は誰のためか
念のために繰り返せば、低所得層にも機会を付与する「無償化」そのものの意義は認められるべきでしょう。しかし、それは日本の高等教育が直面する幾多の課題の一つで、それを優先して打ち出すなら、それなりの必然性や理由づけを行う必要があります。ところが、少なくとも政府文書からはそれをうかがうことができません。
日本の高等教育が置かれた現状を度外視して、自らが強調する「人づくり革命」や「生産性革命」にもたらす影響が限定的な「無償化」だけ力説するという対策は、付け焼刃のような、控えめに言ってもちぐはぐなものです。必然性や理由づけが不明確な政策は、かえって「弱者にやさしい」というイメージ戦略に傾く政権の姿勢を浮き彫りにするものといえるでしょう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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