「高等教育無償化」でイノベーションは生まれるか──海外と比べて見劣りするのは「エリート教育」
このうち、例えばシンガポールは政府歳出の約20パーセントを教育に充てています。シンガポールは都市国家で、狭い国土で資源がなくても利益率の高い産業を育成することで開発途上国から「卒業」し、現在では先進国並みの所得水準に到達しています。この躍進を支えた一つの柱が教育だったといえるでしょう。
シンガポールに代表されるように、政府歳出に占める教育予算の割合で並べると、もともと政府歳出の規模が小さい小国が上位にきやすくなります。その意味では、世界第三位の経済規模をもつ日本の順位が低くなることは、不思議でありません。
とはいえ、日本より予算規模やGDPが大きく、日本以上に「小さな政府」である米国の数値は日本をはるかに上回ります。超大国としての米国の力は、経済力や軍事力だけでなく、教育にも支えられてきたといえるでしょう。
高等教育における他国とのギャップ
ところで、教育の優先度が総じて低い一方、日本の教育予算の配分には大きな特徴がみられます。図3は、各国の教育予算に占める初等(日本でいう義務教育)、中等(高校レベル)、高等(高校卒業後)のそれぞれへの配分を、高等教育向け予算の割合の高い順に示しています。
このうち日本のものをみると、中等教育向けが約38パーセントで最も高く、これは他の多くの国とさほど変わりません。
その一方で、初等教育向けは約33パーセントで、これはサンプルがとれた国のなかでイスラエル(約38パーセント)、アイルランド(約36パーセント)に次いで高くなっています。ところが、高等教育向けは約21パーセントで下から数えた方が早い水準です。つまり、他の主要国と比べて、日本は「初等教育に厚く、高等教育に薄く」という傾向が鮮明なのです。
「少数のエリート教育より、すそ野の広い教育」という傾向は、国全体の発展にとって必ずしも悪いこととはいえません。開国以来の日本の近代化は、それ以前に寺子屋で識字能力が普及していたことで加速しました。さらに、経済学者のジョージ・サカロポロスは1985年の著作で初等教育と中等・高等教育の社会的収益率を計測し、初等教育を充実させた方が社会的収益率が高いと指摘。これを踏まえて、これ以降の開発経済学では初等教育が重視されることになりました。
ただし、情報通信をはじめ知識集約型の産業が発達し、フランシス・ベーコンの格言「知は力なり」がこれまで以上に現実味を帯びる世界にあって、高等教育の重要性はかつてなく高まっているといえます。そのため、図4で示すように、日本政府も高等教育向けの予算の割合を徐々に高めていますが、それでも他の主要国とは開きがあります。
個人プレーだのみの教育・研究
高等教育への関心が低いままに、日本政府がイノベーションの原動力として高等教育の重要性を強調することには、違和感を覚えざるを得ません。
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