コラム

カタルーニャ州首相の信任投票が延期された本当の理由

2018年02月07日(水)19時55分

予定されていたプッチダモン信任投票が延期されたにもかかわらず、プッチダモンのお面を被って、州議会近くでデモの参加する独立派市民 Photograph by Toru Morimoto

<「亡命中」の独立派プッチダモンの首相就任が掛かった信任投票が、当日、突然延期された。緊迫状態が続くカタルーニャだが、市民たちの側には思わぬ変化も見え始めている>

「民は政府に従わない。政府が民に従うのだ」

元カタルーニャ州首相カルラス・プッチダモンの首相就任の信任投票が延期された1月30日、独立賛成派の人々がプッチダモンのお面を被り、州議会議事堂に詰めかけた。

独立派が過半数を占めた昨年12月の選挙結果を受け入れるよう、スペイン中央政府に対して要求したが、群衆はカタルーニャ州警察によって解散させられた。10月には独立を問う住民投票の遂行を助けた州警察だが、自治権を失った今は、中央政府直轄になってしまった。

信任投票が予定されていた日の朝は、携帯電話に届いた「カタルーニャ議会議長ルジェー・トゥレン、信任投票を延期する」という速報で飛び起きた。まさに寝耳に水だ。

前回のブログで述べたように、ひょっとして「亡命中」のプッチダモンが、自身の信任投票のために州議事堂に現れるのではないかと期待が高まっていた。私は「何が起こるか分からない」と書いたが、「延期」はまさに想定外だった。

プッチダモン当選のためのお膳立ては整っていた。スペイン憲法裁判所に代理人投票が禁じられたプッチダモン以外の「亡命中」の4議員中3議員は辞職して、同党所属の別議員に議席を譲った。投票さえ行われれば、プッチダモンが過半数68票を確保して州首相に選出されるはずだった。

言論の自由を奪われた議員たち

なぜ信任投票が延期されたのか。実に不可解なことだらけだ。トゥレン議長がスペイン中央政府の脅迫に屈したのだろうか。

投票を取り仕切る彼に対して、スペイン中央政府の与党・国民党は「トゥレンには2人の子供がいる。(信任投票が行われると)どうなるか分かるだろう」と公に発言していた。そばにいて面倒を見るべき子供がいるにもかかわらず逮捕・拘留されてもよいのか、と脅したのだ。

確かに、信任投票が強行されていたら、カタルーニャ州政府は再び強制的に解体され、トゥレンをはじめ、多くの議員が逮捕されていただろう。

実際に、10月の独立宣言時には「反逆罪」や「煽動罪」などで8人の議員が逮捕された前例があり、身柄を拘束されるよりは議員辞職を選んだ人もいる。逮捕後に釈放された元閣僚2人は「個人的理由」として議員辞職し、獄中の元閣僚も釈放を早めるため、拘留中に議員を辞職した。

また、釈放後も議員を続けている人たちは、パスポートを没収されスペインから出国できず、定期的に法廷に出頭する必要がある。その中の1人であるジュセップ・ルイ議員は、いつ再逮捕されるか分からないプレッシャーの中では「言えることと、言えないことがある」と、言論の自由がないままの政治活動を強いられていることを、地元紙に告白している。

彼らはスペインの法律下で政治活動を行うことを条件に釈放されており、カタルーニャの一方的な独立宣言は法に触れる。現在も調査継続中のケースとされ、少しでも違法性が疑われる言動があれば刑務所に戻される。

morimoto180207-2.jpg

Photograph by Toru Morimoto

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル34年ぶり155円台、介入警戒感極まる 日銀の

ビジネス

エアバスに偏らず機材調達、ボーイングとの関係変わら

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story