コラム

カタルーニャ地方選挙で独立運動はこうなる(5つのシナリオ)

2017年12月21日(木)11時50分

「カタルーニャのための団結(ジュンツ・パル・カタルーニャ)」の選挙ポスター。「プッチダモン・私たちの首相」とカタルーニャ語で書かれている Photograph by Toru Morimoto

<自治権を奪われたカタルーニャ州で12月21日に行われる地方選挙。独立派と反独立派が五分五分とみられているが、選挙後は「亡命政府」が樹立される可能性もある>

12月21日のカタルーニャ地方選挙は、そもそも実施する必要はなかった。前回2015年9月の地方選で、135議席中11議席しか取れなかった国民党が、合計72議席を持つ独立派連立政権のカタルーニャ政府を解体して、独立派潰しのために強行する選挙だ。国民党は、カタルーニャ独立運動に反対するスペイン中央政府の政権与党である。

選挙戦は異常事態の中で進んでいる。連立与党2党の党首が、両者とも現地カタルーニャに不在のままだ。

元カタルーニャ州首相で政党「カタルーニャのための団結(ジュンツ・パル・カタルーニャ)」のカルラス・プッチダモンは、EU(欧州連合)本部のあるベルギーのブリュッセルに亡命中。「カタルーニャ共和主義左翼(ERC)」のウリオル・ジュンケラス党首は、反逆罪と煽動罪の容疑で獄中。

いずれも出馬したものの、選挙運動といえば、プッチダモンは所属政党の集会場に設置されたスクリーンに国外からライブ中継で参加するだけ、ジュンケラスは刑務所から手書きの手紙を送るだけだ。

選挙管理委員会は、政治犯釈放を求める意味の「黄色」が、独立派に有利に働くとして、神経を尖らせている。バルセロナ市がクリスマスの街のイルミネーションとして、政治犯たちのために噴水を黄色にライトアップする予定だったが禁止になった。選挙当日は、黄色いリボンの着用も禁止だ。

また、言葉狩りも行われ、「投獄中の議員」「亡命中首相」など、政治犯がらみの言葉は公共メディアでは禁止されている。

国民党は不人気のため、議席を半分程度に減らすと言われているが、それらの票は、強硬な反独立・反カタルーニャイズムで知られ、前回選挙で25議席だった「シウダダノス(市民党、略称C's)」に流れるはずだ。

自治権剥奪に反対だが独立派ではない「CeC(カタルーニャ・アン・コム・プデム党)」などの存在が選挙予想をより難しくしているが、世論調査では独立派、非独立派が僅差で議席を争う五分五分の戦いになると予想されている。

そこで、選挙後のシナリオを考えてみる。

反独立派が過半数を獲得した場合

C'sの党首がカタルーニャ州政府の首相となり、EUは民族独立の火種が「公正な選挙で民主的に」消されたことに賛同する。独立運動の終焉だ。

C'sが中央政府の国民党などと共に、カタルーニャのスペインへの統合を「合法的」に進める。現在でも公共テレビに介入し、教育機関でのカタルーニャ語の使用規制を訴えているため、カタルーニャの時計の針は、1975年のフランコ独裁政権崩壊時に逆戻りしそうだ。この40年間歩んで来たアイデンティティー復活のための努力が否定されかねない。

独立派が過半数を獲得した場合

1.亡命政府樹立

ブリュッセルに亡命中のプッチダモンが首相に任命されるが、カタルーニャに戻ればスペイン当局に逮捕されるため、帰国できない。スペインは、自治権剥奪などを可能にしている憲法155条適用を継続して、再びカタルーニャ州政府を解体する。

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story