コラム

カタルーニャ地方選挙で独立運動はこうなる(5つのシナリオ)

2017年12月21日(木)11時50分

morimoto171221-2.jpg

10月、独立の賛否を問う住民投票に並ぶ有権者にスペイン治安部隊が暴力を振るった投票所。地面には、当日の有権者の足跡と投票箱が描かれ、「ここで票を投じる」という言葉が添えられている。12月21日のカタルーニャ地方選挙でも使用される Photograph by Toru Morimoto

そうなればプッチダモンは、ブリュッセルか、かつてカタルーニャの一部だった現フランス領ぺルピニャンで「亡命政府」を樹立する。現にペルピニャンでは、フランス系カタルーニャ人たちが村の住宅約50軒を亡命政府のために準備しているという。バルセロナ市は現在も「合法政府はプッチダモンの政府」との見解を示す。

スペイン国内のカタルーニャは中国のチベットのような位置付けになる。亡命政府の存在が、逆に国内の独立運動に対する圧力を強化させてしまい、政治的権力のない独立派市民が国内に取り残される可能性がある。そして独立運動は泥沼化へ向かうだろう。

2.EUが仲介

独立派勝利にもかかわらず、スペイン政府が憲法155条適用を継続することにEUが難色を示し、スペイン政府に投票結果を受け入れるよう説得する。スペインはEUがカタルーニャ独立を認めないことを条件に、カタルーニャに自治権を戻す。

一見、カタルーニャが10月1日の独立を問う住民投票前に戻るようだが、EUが一貫してカタルーニャ独立運動に対して冷淡であることに変化はないし、このシナリオが実現する可能性は低い。

3.市民が蜂起

カタルーニャは近年、統制の取れた非暴力の独立運動を続けてきただけに可能性は非常に低いが、いずれかの時点で、カタルーニャ市民が蜂起する。何らかの突発的な事故をきっかけに暴動が起き、EUが介入する。

スペイン政府がEUによって独立を問う住民投票実施に強制的に合意させられ、再度投票が行われる。

どちらも過半数を確保できない場合

自治権剥奪に反対だが独立派ではない「CeC(カタルーニャ・アン・コム・プデム党)」がカギを握ることになるが、独立派とも反独立派とも袂を分かつこの党が片方と連立を組むのは難しいと考えられ、明確な結果が出るまで選挙が繰り返されることが予想される。

その間は155条が適応され自治権は戻らず、選挙が繰り返されるごとに独立派にとっては不利な選挙となるだろう。

◇ ◇ ◇

要するに、どう転んでもスペイン政府に有利に進むことだけは確かだ。

スペインの闘牛(カタルーニャでは禁止されている)は、最後に必ず牛を殺す。暴れる牛を数人がかりでじわりじわりと槍や銛で弱らせたところで、主役の闘牛士マタドールが颯爽と登場する。既に血を流し、もうろうとしている牛の急所に、マタドールのとどめの剣が突き刺さる。決して、1対1の互角の勝負ではない。

スペイン政府は、弱りながらもいまだ息荒く立ち向かうカタルーニャに対峙している。勝負はほぼ決まっている――急所さえはずさなければ。

しかし、ごく稀に、急所を外したマタドールは牛の返り討ちに遭う。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、4会合連続利下げ 一段の緩和排除せず

ビジネス

米新規失業保険申請、1.6万件減の20.7万件 予

ビジネス

米GDP、24年第4四半期速報値は+2.3%に減速

ビジネス

ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望している理由
  • 4
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 5
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 6
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 9
    世界一豊かなはずなのに国民は絶望だらけ、コンゴ民…
  • 10
    トランプ支持者の「優しさ」に触れて...ワシントンで…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 3
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 6
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 7
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 8
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 9
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 10
    軍艦島の「炭鉱夫は家賃ゼロで給与は約4倍」 それでも…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story