コラム

「45歳定年」は130年前のアイデア? 進歩的過ぎるSF作家たちの未来予想図

2021年09月21日(火)19時00分
退職

andresr-iStock

<未来を思い描き、その未来に備えようとする試みは古代から存在し、16世紀に大きな転機を迎える。その歴史と変遷を振り返る。>

前回のこのコラムでは、未来学が今世界中で新たな盛り上がりを見せ、日本でもブームの兆しがあると書いた。

未来を思い描くこと、その未来に備えること。人間はいつからその営為を始め、続けてきたのだろうか。今回はその起源を辿り、未来学の発展に影響を与えた各時代の人物や書籍を紹介し、初期の系譜を見ていく。

そこには古今東西を問わず通底する、人間の目指す理想の姿があった。

いつから未来を想起するようになったか

未来とはいつか。

明日も1週間後も未来であり、1年後や数十年先、自分が亡くなった後も当然、未来は続いていく。どのような未来が待ち受けているかを予想するのは、先々であるほど困難となる。そして、学問や科学技術が未発達な古代であるほど、予測は困難であった。

農耕が中心であったような古代社会においては、明日晴れるか、1週間後はどうか、1カ月後は――といった天候予想、すなわち未来予測は、食糧の出来不出来に直結し、まさに死活問題だった。

ぴたりと言い当てることができれば、神の如く崇められたことは想像に難くない。それが1年後、翌年の収穫期を占うものであれば、なおさらだろう。

そうした事情を背景に、人々は古来、絶えず変化する未来に思いを馳せていた。当時、その未来予測は多くの場合において宗教めきながら、言葉が紡がれていった。死後の世界、霊魂がどうなるかというスピリチュアルな信仰と綯い交ぜになって――。

古代エジプトにおける『死者の書』にみる死後の世界も、ギリシャ神話で描かれた死後の世界も、楽園を夢見る人間の思いは共通していた。子々孫々、営々と繁栄を謳歌する未来を夢見て、命をつないでいた。吉兆であっても不吉であっても、祭事や神事で占われる言葉は絶大で特別な意味合いを持っていた。

ユートピアの登場

時代は下って中世、そして近代へと移り変わるヨーロッパで、未来学にとって大切な概念が生まれた。理想郷を意味する「ユートピア」だ。1516年に出版された英国人トマス・モアの主著のタイトルであり、世紀を超えて世界中で読み継がれている。

古代から中近世まで時代的乖離があるように感じられるかもしれないが、ユートピアの根底にある考え方は、古代ギリシャ、紀元前を生きた哲学者プラトンの思想が綴られた名著『国家』(The Republic)の理念に深く結びついている。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。著書に『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)のほか、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

国際刑事裁判所、イスラエル首相らに逮捕状 戦争犯罪

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数

ビジネス

米国は以前よりインフレに脆弱=リッチモンド連銀総裁
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 5
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story