コラム

実は日本との縁が深い学問「未来学」、いま盛り上がっている理由とその歴史

2021年07月08日(木)11時57分
地球と未来(イメージ画像)

metamorworks -iStock

<日本人が知らないところで「未来学」がブームに。しかしこの学問は、過去も現在も日本と深い関わりを持っている>

未来学という学問がある。端的に言えば、「あるべき」未来の姿を見据え、備え、行動するための学問だ。

社会学や経済学、政治学、数学に統計学などさまざまな領域が学際的に重なり合う。草創期は数々のSF(サイエンスフィクション)小説の中に描かれる「未来」に彩られていた。SFに見られる想像性と創造性が未来学の原点であり、今も脈々と息づいている。

欧米を中心に大学や高校、中学で教えられている一方、日本ではまだ馴染みが薄い未来学。だが歴史をひも解くと、その発展に実は日本が一役買ってきたことが分かる。その事実はあまり知られていない。

英語ではFutures StudiesやFuturologyと呼ばれる古くて新しい学問、未来学とは――。連載を通じてその興りや現在、これからを包括的に紹介していきたい。

なぜ今未来学か

「今、未来学がブームである」

そんなことを言われたら、きょとんとされてしまうことだろう。しかしこのブームは一面の事実である。海外に目を向けると、未来学を学ぼうというトレンドの波は21世紀を迎える前から次第に高まり、学校教育や企業の戦略立案、さらには国家の方針策定といった場面で未来学が取り入れられてきた。

加えて、ビッグデータなどの技術革新に伴う今次のAI(人工知能)ブームにより、未来学の実効性が一段と高まる兆しが見られる。

ただ、日本においてはAIブームの実感はあるにしても、未来学ブームという感覚はほとんどないかもしれない。

1970年に一大ブーム

長期的に見れば、未来学のブームは押しては返す波のように繰り返している。ちょうどAIのブームと冬の時代が交互に訪れ、今が第3次ブームと言われるのと同じように――。

「昨年末から今年へかけて、(中略)大変な未来ブームだった」。

これは2011年に亡くなった日本を代表するSF作家、小松左京氏による1967年の論考『<未来論>の現状』の一節だ。ゆえに今の話ではない。

小松氏は1968年に民族学者の故・梅棹忠夫氏など有志らと「日本未来学会」を立ち上げた。この時代、高度経済成長期を謳歌していた日本に住む多くの人が、未来に夢を抱いていた。そうした中、
「そもそも未来学なるものは、学として成立しうるものだろうか」(梅棹氏)
「「未来学」そのものが、いまようやく端緒に就いたばかり」(小松氏)
と未来学を本格的に普及させる機運が高まっていた。未来学をどういう方向に進めていくべきか、探っていた。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。主著に『未来学』(白水社)、『生成AIの常識』(ソシム)『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)など、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ

ワールド

米、ロシアが和平合意ならエネルギー部門への制裁緩和

ワールド

トランプ米政権、コロンビア大への助成金を中止 反ユ

ワールド

ミャンマー軍事政権、2025年12月―26年1月に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 5
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 6
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 7
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 8
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 9
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 10
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story