コラム

実は日本との縁が深い学問「未来学」、いま盛り上がっている理由とその歴史

2021年07月08日(木)11時57分

半ば手探りの状態ではありながら、熱情があった。未来を自分たちでつくり出していくという使命感や高揚感もあったであろう。

日本で未来学を根付かせ、発展させようという熱意は1970年、京都での未来学の国際会議「第2回国際未来学会」開催にも表れている。果たして、この会議を契機に「世界未来学連盟」(World Futures Studies Federation)がパリで発足した。

日本がこの国際会議をホストした1970年、日本の未来学ブームは沸点に達したと言える。同年、大阪で万国博覧会が開かれたことは決して偶然ではなく、むしろ深い関係があったことは追って振り返りたい。

しかしそれから半世紀余りが過ぎた今、日本における未来学の認知度、理解度は決して高いとは言えない。

1967年当時、大学における「未来学科」新設について「いまから、未来学の体系について、いくらかはかんがえておいたほうがいいようにおもわれる」(『未来学の提唱』(1967)より)との梅棹氏の指摘がありながらも、日本において未来学に関する議論は目立った盛り上がりを見せぬまま21世紀を迎え、今に至っている。

あの一時期の未来学に対する熱はどこへ行ってしまったのか――。この間、空白の数十年の理由について、未来学の歩みとともに連載の中で考察する。

日本に高いポテンシャル

一方、世界ではこの半世紀の間に、未来学についての熟議が重ねられ、体系化された一学問として認識されるようになった。欧米を中心に未来学の学術的使命が徐々に明確になり、学問の輪郭がはっきりとしてきた。その理論がビジネスなど実社会に応用されるケースも増えた。

未来学は、着実に浸透してきた海外に比べ、日本では依然あまり耳慣れない言葉のままだ。しかし、日本は今後この学問が大きく発展する余地があると考えられる。

地球温暖化や海洋汚染といった問題など、未来学が扱う主要テーマの1つ、SDGs(国連が掲げる持続可能な開発目標)の諸課題は、日本にとって決して無関係ではないだろう。そうした課題解決に向け、未来学は活用できる。

加えて、少子高齢化など将来の人口動態が不安視される課題先進国である。未来学が大きく花開く素地が日本にはあるはずだ。

実際、日本で未来学の胚胎を予感させる動きはこのところ顕著だ。未来の技術や社会を予想したり、自社の将来像と重ねたりする企業の取り組みが目立ち、未来学者、フューチャリストという肩書も散見される。

ただ、それぞれの企業や人物が別個に活動している節があり、混沌とした状態とも言える。そこに未来学という横串を刺すことができれば、有機的な連携が生まれ、学問的発展も見込める。そうした期待や願いを連載には込めた。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。主著に『未来学』(白水社)、『生成AIの常識』(ソシム)『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)など、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日続伸、5万円回復 米利下げ期待などが

ワールド

NZ補給艦、今月台湾海峡を通過 中国軍が追跡・模擬

ワールド

香港高層住宅群で大規模火災、44人死亡・279人不

ビジネス

注意深く適切に、遅すぎず早すぎずやらなければならな
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story