EVと太陽電池に「過剰生産能力」はあるのか?
5月の重慶モーターショーに展示されたオフロードEV「東風・猛士917」。米バイデン政権は中国のEV「過剰生産」に対抗して関税を4倍にした RenYong / SOPA Images via Reuters Connect
<あるとしたら、どこにあるのか?>
アメリカのバイデン政権は5月14日に中国製の電気自動車(EV)に対する制裁関税を現行の25%から100%に、太陽電池に対する制裁関税も25%から50%に引き上げると発表した。4月にアメリカのイエレン財務長官が訪中した際にもEV、太陽電池、二次電池において中国が過剰な生産能力を形成し、安い製品を輸出して外国を圧迫していると批判していた。今回の制裁関税の引き上げはそうしたアメリカ側の不満を背景とするものである。
■需要は急成長
たしかに、中国のEVの工場稼働率は5割程度とされ(『日本経済新聞』2024年4月28日)、太陽電池に関しては、中国の生産能力はセルの段階で844GWであったのに対して、2023年の世界での太陽光発電設備の新設は407~446GWと推計されており(注1)、中国は一国で世界の需要の2倍ほどの生産能力を抱えていることになる。
【動画】EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴
しかし、EVも太陽電池も需要が急成長していることを忘れてはならない。世界のEV販売台数は2021年から2023年の間、年率67%という猛烈な勢いで拡大し、2023年には1381万台になった(注2)。
国際エネルギー機関(IEA)の最近のレポート(注3)の予測では、世界のEV販売台数は現状の政策をもとにしたシナリオだと2030年に4500万台、温室効果ガス排出ゼロを目指すシナリオだと2030年に7000万台としている。つまり、2030年には、2023年の販売実績から控えめに見ても3.3倍、強気の見通しでは5倍も販売規模が拡大すると見積もられている。であるならば、仮にいま販売台数の2倍の生産能力があるのだとしても、生産能力の増強をしなければすぐに生産能力が不足することになる。
太陽光発電設備の新設も2021年は174GWだったのが、2022年は236GW、2023年は407~446GWと急増している。太陽光発電は風力発電とともに地球温暖化対策の切り札であるため、その需要は当然これからも急増していくはずである。その新設の規模は2030年には880GW(BloombergNEF予測)とも1000GW(Longi Solar予測)とも見込まれている。つまり、太陽電池の新規需要も7年のうちに2倍以上になる可能性があり、もしそうなれば中国の現状の生産能力では過剰どころか若干不足ということになる。
とりわけ欧米と日本は2050年には温室効果ガス排出を実質ゼロにすることを公約している。その目標を実現するためには太陽光発電などの再生可能エネルギーを主力電源にしなければならないし、火力発電所は全廃しなければならない。2050年の欧米と日本の道路上には当然ガソリンや軽油を燃やして走る自動車は一台も走っていないはずである。中国のEVと太陽電池の生産能力が過剰だと言い募って、投資をやめさせることがこの目標の実現に寄与するとはとうてい思えない。
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