コラム

中国の旅行会社が「新シルクロード」に日本メディアを招待した理由

2017年04月18日(火)16時03分

日本の若者たちに海外を見てもらいたい

このツアーは参加者に大きな衝撃を与えていた。なかでも最大の衝撃を受けていたのが私の息子だ。実は彼が大学に進学する時、中国の大学を受験したらどうだと勧めたことがある。世界的な経済大国へと成長した中国に住むことは、彼の人生にとって大きなプラスになると考えたからだ。

ところが我が息子は「汚いからいやだ」といった軟弱な理由で断った。子供の頃に連れて行った時にあまりいい思い出がなかったのだろう。大学では中国文学を専攻し『西遊記』で卒論を書いたというのに、在学中は中国を訪問することはなかった。小説の中の中国と現実の中国とは別物だとの思いのようだ。

だが、今回の旅で中国のイメージががらりと変わったらしい。新疆ウイグル自治区トルファン市に近い火焔山は『西遊記』の名場面として知られる。今では観光地としてあちらこちらに孫悟空の像などのモニュメントが建てられている。この地を訪ねたことで、息子の中でも中国文学と現実の中国とが一致したようで、驚きのあまり目を丸くしていた。

「もし将来大学院に進むことがあるなら、中国に行ってもいいかもしれない」。旅の最後にはそんなことを言うようになっていた。

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孫悟空の像と私の息子(写真:筆者)

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火焔山ではラクダに乗る体験もできる(写真:筆者)

たった8日間の体験であっても、人間の考えはがらりと変わる。最近の若者は海外旅行を好まないという。お金がない、ネットを見れば海外の情報はだいたい入ってくるなどさまざまな理屈があるようだが、私に言わせればばからしい。現地を見ること、稲妻のような衝撃的体験をすること。これは金では買えないもの、ネットでは得られないものなのだ。

日本の若者たちよ、金銭的に無理をしてでも海外を見てほしい。それが君たちにとっての財産となるはずだ。

「新長安・新シルクロード・新夢路視察団」の団長である私・李小牧も、故郷からはるばる離れた日本での体験と生活によって今の地位を築いたのだということを言い添えておこう。

【参考記事】ロンドン直通の「一帯一路」鉄道で中国が得るもの

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

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