コラム

尖閣問題も五輪ボート会場問題も「ノーベル賞マインド」で

2016年10月25日(火)18時01分

TT News Agency/Stina Stjernkvist/ via REUTERS

<ノーベル賞3年連続受賞を受け、「日本は本当にすばらしい!」と中国人が大騒ぎ。だが日中両国にはぜひとも、大胆かつオープンな姿勢でノーベル平和賞を共同受賞してもらいたい。東京五輪で韓国開催案が飛び出した会場問題についても、同様の姿勢が求められるのではないか> (写真は今年のノーベル医学生理学賞の発表の様子)

 こんにちは。新宿案内人にして「元・中国人、現・日本人」の李小牧です。最近、中国人の友人の愚痴を聞くのが辛い。

「いやあ、日本は本当にすばらしい。それに比べて中国は......」

 大隅良典・東京工業大学栄誉教授のノーベル医学生理学受賞の後、中国の友人からたびたびこうしたぼやきを聞くようになった。2016年のノーベル賞では大隅教授の受賞が中国でもっとも注目を集めたといってもいいのではないか。中国メディアを見ると、こんな記事が目につく。

「なぜ日本は米国に次ぐ世界第二のノーベル賞大国となったのか?」(財経網、2016年10月6日)
「制度に自信があればこそ、ノーベル賞ラッシュを見る」(財新網、2016年10月10日)
「43歳で助教授、中国なら落ちこぼれの人間がノーベル賞を獲得」(捜狐教育、2016年10月16日)

 いずれも大隅教授の業績を紹介するとともに、日本の教育制度を絶賛する内容だ。日本人(日本国籍保持者)の受賞は3年連続で合計23人。自然科学部門では「今世紀だけで」受賞者数17人となり、米国に次ぐ2位だと報道されている。

 一方、中国は屠呦呦(2015年ノーベル医学生理学賞)の1人だけ。「同じアジアの国なのに、なぜ日本はこれほどクリエイティブな人材を生み出すことができるのか! 中国は詰め込み型教育で子どもたちはへとへとだ。創造性なんて発揮する余裕もない。それに比べて日本はすばらしい」とうらやましがられているわけだ。

【参考記事】それでも中国はノーベル賞受賞を喜ばない

 この中国の報道は不正確で、2001年以降の日本人ノーベル賞受賞者は14人。米国籍を取得した南部陽一郎教授と中村修二教授を加えても16人だ。外国籍を取得した研究者まで入れると、中国にもダニエル・ツイ教授(1998年ノーベル物理学賞)という「元・中国人、現・外国人」の受賞者もいるのだが、これも「中国では実力のある研究者は海外に脱出するのに! やっぱり日本はすばらしい」となるらしい。

 日本の成果はなるべく大きく描き、中国の姿は実像より小さく描く。日本をだしにして中国の教育を嘆く自虐芸にはまっているという側面もありそうだ。

領土問題を平和的に解決できたら受賞確実では?

 もっとも、中国が日本を上回る分野もある。それがノーベル平和賞だ。日本人は佐藤栄作元首相の1人だけ。一方、中国は2人の受賞者を生み出している。

 ただし、ノーベル平和賞には2種類ある。抵抗運動のシンボルとして表彰された者、そして国際平和の課題解決に成果を残した者だ。中国がこれまで受賞したのは前者のパターンだが、世界的大国を標榜している以上、ぜひ後者のパターンでも受賞して欲しい。

【参考記事】「ホワイト・ヘルメット」を無視するノーベル平和賞の大罪

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story