コラム

担い手不足解消へ ローカル線の低コスト自動運転とBRT化で変わる地方の移動

2022年08月30日(火)13時05分
地方の電車

ローカル線の存廃問題解決の一助に(写真はイメージです) MASAHIKO NARAGAKI-iStock

<運転士や保守作業の係員不足などの問題を背景に、鉄道への自動運転システム導入に関する議論が進みつつある>

バスやタクシー同様、鉄道の担い手不足も深刻だ。乗客の減少とそれに伴って廃線問題が深刻化している。クルマの自動運転に関心が集まる一方、鉄道の自動運転については国土交通省の中で検討会が立ち上がるなど議論が進みつつあるが業界内にとどまっている。

鉄道の今後の維持活性化のために注目したいこと、導入が検討されている新技術について紹介する。

◇ ◇ ◇


kusuda220830_1.jpg

香椎線の先頭車両の運転台 筆者撮影

香椎線(JR九州)の先頭車両の運転台の係員は一見運転しているように見えるが、実は運転士ではない。運転はシステムが担い、係員は主に緊急停止の操作や避難誘導などを行っている。JR九州は運転士不足対策として、運転士免許を持たない係員が乗務する鉄道の自動運転システムを確立させようと2020年より実証実験を行っている。

これまで国内の鉄道の自動運転は、レールを介して常に情報を伝送する形式(ATC)で実用化されてきた。しかし、ATC化には莫大な設備投資が必要で乗降客数の減少が進む在来線への導入は難しかった。

常にレールから情報を受け取るのではなく、JR九州のように後付け装置から情報を受け取る形式(ATS-DK)での安価な自動運転システムを確立させ、ローカル線に導入できないかと期待が高まっている。東武鉄道も大師線で係員付き自動運転の実現に向けて実証実験を行うと21年4月に発表した。このように、鉄道業界でもローカル線での自動運転システム導入の議論が活発化している。

完全無人運転を世界で初めて実現した日本

鉄道にもクルマと同じく自動化レベルがあり、GoA (Grade of Automation)と呼ばれる。日本の新交通システムや欧州で導入が進んだ運転士も係員もいない完全無人運転(UTO:Unattended Train Operation)がGoA4、東武鉄道のように係員は乗務するが運転士は乗務しない自動運転(DTO:Driverless Train Operation)がGoA3、JR九州のように運転士免許を持たない係員が先頭車両の運転台で乗務する自動運転をGoA2.5、丸ノ内線などの東京メトロのように加減速の運転操作を自動化した半自動運転をGoA2と定めている。一般的な路線はGoA1、路面電車はGoA0となる。

UTOを世界で初めて実用化したのは、実は日本だ。1981年開業の神戸ポートライナーに導入された。運転士も駅員もいない鉄道の自動運転システムは、大阪メトロニュートラム、横浜シーサイドライン、ゆりかもめなどの新交通システムに導入されたが、地下鉄やローカル線に導入されることはなく、海外展開もできなかった。

欧州は地下鉄にUTOを導入し、DTOも積極的に採用してきた。そのシステムを国外にも輸出している。欧州に運転士や係員のいない鉄道や駅が多いのには、こうした背景がある。

日本でも運転士や保守作業などの係員不足から再びこの動きが業界内で注目されている。2018年には国土交通省鉄道局の「鉄道における自動運転技術検討会」も開催され、一般的な路線への自動運転システム導入の後押しとなっている。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震、インフラ被災で遅れる支援 死者1万

ビジネス

年内2回利下げが依然妥当、インフレ動向で自信は低下

ワールド

米国防長官「抑止を再構築」、中谷防衛相と会談 防衛

ビジネス

アラスカ州知事、アジア歴訪成果を政権に説明へ 天然
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 7
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story