コラム

教育DXで変わる通学路の安全対策

2022年04月18日(月)17時20分
通学風景

通学路の危険を見つけたり、対策を主体的に考えることで、子供たちの安全意識も高まる(写真はイメージです) ferrantraite-iStock

<長野県伊那市の中学で行われたデジタルデバイスを駆使しての「ヒヤリハットグッド・マップ」作成は、交通事故を未然に防ぐ取り組みとして全国に広まることが期待されている>

新年度が始まった。子供たちは期待と不安を胸に登校し、保護者や地域は健やかな成長を願う。一方で、千葉県八街市のような通学路での交通事故が起きないかという心配は尽きない。通学の安全対策の仕組みは古いままの地域も多く、現代に合わせたかたちで体制や仕組みを検討する必要がある。それが2021年のGIGAスクール構想(学校のDX)元年を契機に、ユーザー参加が可能になり、少しずつ変わりつつある。

中学生がまちづくりに参画

長野県伊那市の春富中学校1年生は昨年度、自宅から学校までの危険な場所と楽しい場所、その理由をデジタル端末で入力して意見を集約した。それをもとに解決策を検討して市や県に提案する試みを行い、一緒に対策を講じてもらうよう大人たちを動かした。

この活動が実現した背景には、学校の学び方の変化がある。デジタル端末の活用と自ら考えてグループでプレゼンテーションをするという学習スタイルへの大転換が主な要因だ。

デジタル端末の活用は、文部科学省の方針でパソコンやタブレットを学習用具として活用するGIGAスクール構想の一環だ。新型コロナウイルス感染症の流行により一時は通学できない時期もあったため、学校教育でもデジタルツールが積極的に活用されるようになった。パワーポイントを使った発表、写真や動画を用いた表現、Web会議システム「Zoom」を活用した外部講師の登壇などが日常的に行われるようになってきている。

このようにビジネスの場で行われているような手法が学校教育の現場でも使われており、中学生のまちづくりへの参画が容易になってきている。

伊那市では、このGIGAスクール構想を機に、簡便に通学路の危険箇所や楽しい箇所を集約して見える化するヒヤリハットグッド・マップの作成に乗り出した。春富中学校から新型コロナウイルスの流行によって行事がなくなってしまった生徒たちに何か機会を作ってほしいと申し出があったという。1学年3組あるため、3カ所の危険箇所に対して、自らすぐにとれるアクションも含めた解決策を検討した。

kusuda220418_giga2.jpg

「第2回安全安心の移動を考えるオープン報告会」春富中学校1年2組の発表 道路空間整備システム構築プロジェクトチーム-YouTube

具体的には、「暗いので木を切ってほしい」、「クルマの速度を落としてほしいので看板を作りたい」、「年下の小学生を気遣って、徒歩と自転車の通る所を分けてほしい」などの解決策が挙がってきた。部活が終わると日没後で暗いため、自分たちを(ドライバーに)認識してもらうためのキーホルダーや太陽光で充電できるウォッチのデザイン画まで提示されるなど、柔軟でありながら実現可能なアイデアが提案された。毎日使う通学路だからこその現状分析や問題点の指摘も見事なものであった。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米3月モノの貿易赤字、9.6%増の1620億ドル 

ビジネス

アマゾン、関税費用表示との報道を否定 米政権は「敵

ビジネス

米GM、関税の不透明感で通期業績予想を撤回 第1四

ビジネス

米3月求人件数、28.8万件減 解雇も減少し労働市
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    【クイズ】米俳優が激白した、バットマンを演じる上…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story