コラム

教育DXで変わる通学路の安全対策

2022年04月18日(月)17時20分

一方的に市や県などに道路整備を依頼するのではなく、このように生徒自らアクションをとることも可能になってきた。中学生の参画は、何よりも生徒自身の安全意識の向上につながっている。これまで理由をちゃんと理解することなく守っていた交通ルールも、主体的に関わることで、ルールを守ることの大切さが身に染みて分かってくる。通学に使うモビリティ選びや点検の必要性、さらには道路インフラが当たり前にあるものではなく、多くの人の手が加わっていることなどを考えるきっかけになったのではないだろうか。

この取り組みは、伊那市と道路舗装会社の大成ロテックの連携協定により行われている。今後、全国の学校や保育園などでiPadやパソコンの活用が一般的になるため、交通事故を未然に防ぐ取り組みのモデルとして日本全国に広まることが期待される。

通学路の安全確保の問題点

保護者からの情報収集と現地調査をもとにヒヤリハット・マップを作成し、関係機関と連携して対策を検討する仕組みは、さいたま市や金沢で見られる。しかし、このような取り組みを行っている地域は稀で、特に中学校の通学路の危険場所の点検を定期的に行っている自治体や学校は非常に少ない。大きな事故が発生した際に行われる全国一斉点検で実施するだけの地域が多い。

組織や仕組みがないことや人手不足、少子高齢化で予算がないことも理由に挙げられる。

通学路は、市・県・警察など、異なる道路管理者や交通管理者によって管理されている。春富中学校の通学路は、市道と県道が交差する場所が多く、市と県が協力し合う必要がある。しかし、通学路の安全について一緒に取り組む仕組みや組織がこれまではなかった。

さらに、道路はモータリゼーションとともに整備されたが維持補修に莫大な費用がかかる。予算が厳しい中、多くのクルマが往来する幹線道路は着手しやすいが、脇道に入った生活道路までは目が行き届かないことが多い。地区でまとめて市へ要望する仕組みが中山間地域であるが、クルマで移動する大人の目線と、徒歩や自転車で通学する子供の目線では課題が異なる場合も多い。

これまでは、自治体に保護者や地域住民が要望して整備してもらうのを待つことが多かった。それは数年かかったり、予算や法律的な問題の都合上実現しないこともよく知られている。しかし、事故は今日起こるかもしれない。歳入の減少の問題は急には解決されない。デジタル活用で通学路を利用する生徒たちの参加が容易になりつつある今、事故を未然に防ぐ仕組みづくりに彼らの力を借りない手はない。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story