コラム

タクシーが成長産業な訳──「客待ち」ではなく「創客」の時代へ

2022年01月27日(木)20時00分

しかし、提案や工夫次第でタクシーの需要はまだまだ伸びる。以下は、筆者が考えるタクシーを駆使した新たなサービスだ。いくつか参考に紹介する。

◆通院サポート

高齢になり病気や怪我をしたりすると定期的な通院が発生する。近くに良い病院があればいいが、先端医療機関に通院しないといけない場合には、大都市まで出ていく必要がある。家族がクルマで送迎し、半日付き添ったり、仕事を休んだりしなければならない。

ある60代の女性は、がんの手術を受けた母の定期健診に、3カ月に1回ほど70キロ離れた大学病院へとクルマを運転し、1日付き添わないといけないそうだ。介護資格がある乗務員が付き添ってくれるタクシーがあれば、年間契約で10万円以上払っても決して高くないと話す。
          
◆買い物サポート

買い物はコープ、ネットスーパーでも生活は成り立つ。買い物代行を依頼すると高くなり、たまにスーパーや百貨店に行って自分の目で見て選びたいという高齢者のニーズは強い。

生活に困らない、買い物を楽しみたいというニーズを、スーパーや百貨店と連携し、ネットスーパー、買い物代行、買い物ツアーをパッケージ化してアプローチしてみてもいいだろう。

◆免許返納後の生活準備サポート

そろそろ運転免許証を返納したいが、返納した後の生活が描けない。父母に免許返納をさせたいが、なかなか踏み切ってくれないと頭を抱える人も多い。タクシー会社の中には自動車教習所をグループで経営している所もあるため、クルマの運転スキルを教習所でチェックしてもらうのもいいだろう。

クルマを手放した場合、どんな生活になるのか。ゆるやかな免許返納を目指す上でタクシーはどう活用できるのか。クルマのない生活を事前に設計/シミュレーションするなど、免許返納後の生活準備サポートを提供することもできるかもしれない。

クルマが主な移動手段になっている地域では、タクシーは遠い存在であり、乗るのは恥ずかしい、乗り方が分からないという人も多い。免許を手放す前にタクシー乗車を体験してもらえる試みがあれば、その後の生活へのイメージも湧きやすいだろう。タクシーのみでの移動は高額になるため、鉄道・バス・パーソナルモビリティを組み合せて提案してみるのも手だ。

筆者はライドシェアをはじめとする、さまざまなモビリティサービスについて長年取材してきた。新しいサービスを検討することは重要だが、持続可能なものにするには時間がかかる。日本ではまずタクシー業界の可能性を再検討し、使い方を高度化していくのも交通改革の一つの道として考えられる。

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プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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