コラム

コロナ禍で進む自転車活用が日本の移動貧困脱却のカギに

2021年02月26日(金)12時15分

コロナ禍で自転車通勤を認める企業が増えた(写真はイメージです) monzenmachi-iStock

<新型コロナの感染対策で三密回避が共通認識になったことで、自転車の価値が見直されている。なぜ自転車の活用がまちづくりのヒントになるのか? 移動手段としての可能性、国内の取り組みを紹介する>

コロナ禍で壊滅的な被害を受けたモビリティ。そのなかで唯一大きく利用者を伸ばしたモビリティがある。自転車だ。

需要が供給に追いつかないほど自転車が売れているのだという。自転車産業振興協会によると、2020年5月の1店舗当たりの新車販売台数が全国で前年同月を上回った。これは都市部だけの現象ではない。北海道や東北、中国・四国、九州でも前年同月比を上回っている。関係者によると過去10年間をみても異例の事態だという。日本のみならず海外でも、コロナ対策と身体を動かすことによる健康維持を目的に日常生活の足にする動きが見られ、自転車を買い求める人が殺到した。

国内の自転車の販売関係者によると、この傾向は2021年も続く見通しだ。特にスポーツバイクは世界的にも人気で、今年の春以降はさらに品薄になることが予測されているという。

かつて日本人が愛用し、一度は遠ざけた自転車が、三密を避けられる移動手段、ひいては移動貧困社会の救世主としていま見直されている。

忘れられた自転車

最近、スタイリッシュなクロスバイクに乗って自転車を楽しむ人は増えているように感じられるかもしれない。しかし、トレンドは一部の人にとどまり、日本の自転車業界全体で見れば衰退しているという。移動がクルマ中心にシフトしたため、日常的に自転車に乗る人が減少したからだ。

1人1台クルマを所有することが一般化する以前は、老若男女問わず自転車は無くてはならない存在だった。特にクルマの運転免許を取得しなかった女性にとって、日常の買い物には欠かせない移動手段だった。そのため世界的にも珍しく、子どもの頃から自転車に乗る練習をする習慣がある。乗っている姿を見たことのない祖父母も子どもの頃には乗っていたのだ。

クルマが手ごろな価格で運転しやすく、女性にとっても安全で身近な移動手段になるとともに自転車の利用機会は減っていった。自転車はクルマの運転免許を取得するまでのつなぎとして捉えられ、免許を取得後にはほとんど使われなくなる。自転車からクルマへの乗り換えは、大人への階段を上るかのような感覚で、クルマはステータスの象徴にもなった。だから、大人がママチャリに乗っていると「あの人はクルマが買えないのか?」などと今でも指を刺されることがある。

都市部では、自転車通勤を認めない企業が非常に多い。自転車通勤をしている途中に事故に遭う危険性を回避するためだ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

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