コラム

北方領土にロシア空軍の戦闘機が展開 演習か、常駐か?

2018年08月09日(木)18時00分

択捉島に展開したのと同型のSu-35S戦闘機 Sergei Karpukhin-REUTERS

択捉島に新鋭戦闘機が飛来

北方領土訪問について2回にわたって報告したが(「北方領土に行ってみた(再訪)」「北方領土に行ってみた(再訪)-2」)、今日になって新たなニュースが飛び込んできた。

択捉島のヤースヌィ空港にロシア空軍のSu-35S戦闘機が飛来したというもので、地元紙「サハリンインフォ」が2018年8月3日付で報じた。問題の記事に添付された写真によると、少なくとも3機のSu-35Sが駐機場に駐機していることが確認できる。

注目されるのは、これが「試験戦闘配備」であるとされている点だ。

ロシア軍の用語でいう「試験戦闘配備」とは新型兵器の部隊テストなどを指すが、Su-35Sは100機近くがロシア空軍に配備されており、すでに実戦配備段階に入っている。となると、択捉島における「試験戦闘配備」とは、戦闘機部隊を択捉島に常駐させることを念頭に置いた展開である可能性が考えられよう。

地上要員を伴っていることからしても、ある程度の期間にわたって展開することを念頭に置いていることは間違いない。

進んでいた展開準備

その兆候は今年に入ってからすでに見られていた。

今年1月、ロシア政府は、それまで民間空港とされていたヤースヌィ空港の管轄官庁に国防省を加える政令を発出しており、これによって同空港は軍民共用化された。また、衛星画像による分析では、今年の春頃にヤースヌィ空港に新型の着陸支援システムが設置されたと見られていたが、今回の訪問で筆者らの訪問団が同空港の近傍を通過した際、計器着陸システムと見られるアンテナ装置を実際に確認することができた。

着陸支援システムは悪天候(北方領土ではしばしば濃霧が発生する)でも航空機が離発着できるようにするものであるから、必ずしも軍用設備というわけではないが、軍用機の展開を見据えた近代化であった可能性は排除できない。

3月には、同じ択捉島の軍用飛行場ブレヴェストニクにSu-35Sが着陸しており、今後の戦闘機の展開に向けた布石ではないかとも考えられていた。冷戦期のソ連軍は択捉島にMiG-23戦闘機を配備していたが、ソ連崩壊後に部隊は解体されており、この着陸は北方領土におけるおよそ20年ぶりの戦闘機展開であった。ただし、この際に着陸した2機は給油ののち、ただちに離陸している。

演習か、常駐か?

そこに来て、今回のSu-35S部隊の「試験戦闘配備」である。

その意味するところは二つ考えられよう。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ中、ガス輸送管「シベリアの力2」で近い将来に契約

ビジネス

米テスラ、自動運転システム開発で中国データの活用計

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story