コラム

第2回日露防衛・外交トップ会談(2プラス2)──すれ違う思惑と今後の展望

2017年03月24日(金)21時30分

日本とロシアの外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)で(3月20日) 左からロシアのショイグ国防相、ラブロフ外相、日本の岸田外相、稲田防衛相 David Mareuil-REUTERS

<対中牽制の観点からも日露協力を図りたい日本と、中国と敵対することを望まずアメリカの同盟国を信じることもないロシアとの隔たりは大きい。踏み込んだ信頼醸成措置が必要だ>

4年ぶりの2+2

3月20日、日露外務・防衛担当閣僚協議(2+2)が東京で開催された。

日露は2013年11月に初の2+2を東京で開催したが(「日露防衛・外交トップ会談(2プラス2) その意義と注目点」)、翌2014年にはウクライナ危機が勃発したことで第2回は開催できずにいた。

現場レベルでも海上自衛隊とロシア太平洋艦隊はほぼ毎年、合同で海上捜索救難訓練(SAREX)を実施してきたものの、これも2014年を最後に実施されてこなかった。

しかし、昨年末のプーチン大統領訪日をきっかけとして日露は再び安全保障交流を活発化させようとしており、今年1月には3年ぶりにロシア艦艇が日本を訪問。そして今回の第2回2+2へと至った。

目立つ食い違い

もっとも、日露の立場の溝を埋めることは容易ではない。

たとえば今回の2+2で日本側は東シナ海及び南シナ海での中国の活動に関する懸念を提起したが、ロシア側からは反応がなかったとされる。

もともとロシアとしてはこれらの地域に大きな利益を有している訳ではなく、中国の海洋進出問題やそれに伴う領土問題からはなるべく距離を置く政策を取ってきた。

さらにウクライナ危機後にはやや中国寄りの姿勢さえ見せるようになっており(それでも完全に中国に同調することは避けている)、東シナ海及び南シナ海での合同演習も2014年と2016年に実施した。

安倍政権としては領土問題だけでなく中国の拡張主義を牽制する観点からも対露政策を重視していると伝えられ、「「2プラス2で対中認識を共有したい」(外務省幹部)との思惑があった」とされる(『讀賣新聞』3月21日)。

しかし、以上のようにロシアが中国への傾斜を強めつつあるなかでは、最初から難しかったと見るべきであろう。

『産経新聞』は「日本側としては、中国と戦略的パートナーシップを結ぶロシアが「中国一辺倒にならないようにしなければならない」という政府高官の発言を伝えているが(『産経新聞』3月21日)、実際に望みうるのはせいぜいこの程度(日中間におけるロシアの中立)でしかない。

ちなみにこの記事で『産経新聞』は「ロシアは自国の「裏庭」と位置づける北極海航路に中国が進出していることを警戒している。」としており、これは事実ではある。

これに加えてロシアは中央アジアへの中国の進出など様々な側面で中国を警戒してもいるが、ロシアはそれ以上に、中国と明示的な敵対関係に陥ることを警戒している。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

国内超長期債の増加幅は100億円程度、金利上昇で抑

ワールド

ウクライナ、中国企業3社を制裁リストに追加

ワールド

トランプ米大統領の優先事項「はっきりしてきた」=赤

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 少なくとも30人死
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 5
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 8
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story