コラム

第2回日露防衛・外交トップ会談(2プラス2)──すれ違う思惑と今後の展望

2017年03月24日(金)21時30分

中ソ対立当時のように長大な国境で中国と武装対峙する事態の再来はロシアにとっては軍事的悪夢であり、そのような事態を避けることこそが最大の安全保障であるということになる。この意味でも「対中牽制」という側面からロシアに過大に期待すべきではないだろう。

また、今回の2+2では北朝鮮の核・ミサイル開発を非難することで日露の立場が一致する一方、これに対抗するために配備されている在日米軍のミサイル防衛システムを「均衡が取れていない」「戦略的安定性を毀損する」などとロシアが批判し、ここでも食い違いが目立った。

北方領土の軍事力強化

2+2では、日本側から北方領土でのロシアの軍事力強化に関する質問が出たとされる。

これは2月にショイグ国防相がロシア議会で証言した際、クリル諸島(北方領土と千島列島を含めたロシア側の呼び方)に新たな師団を配備すると発言したことを受けたものである(「ロシアの「師団配備」 北方領土のロシア軍は増強されるのか」)。

これに対するショイグ国防相からの返答は次のようなものであった(タス通信、3月20日)。

「問題の師団(単数形)は過去6年にわたってロシア連邦の3つの構成主体で編成されてきた。それはサハリン州、沿海州、アムール州である」

「(師団は)誰かに対抗するために編成されているのではなく、もっぱらロシア連邦の領域を保護するためのものである。その国境を海からも空からも守るものである」

この発言は一見、ロシア政府の公式見解を繰り返すもののようでもあるが、反面で興味深い部分も含んでいる。

ショイグ国防相は「師団」を単数形で用いており、それがサハリン州、沿海州、アムール州の3州にまたがって配備されることを示しているためである。また、それは海空の脅威に対抗するものであることも示唆している。

このようにしてみると、ロシアが「クリル諸島」に配備するとしている師団は通常の陸軍の師団ではない(タス通信も「新たな師団がロシア軍の如何なる軍種又は兵科であるのかを明らかにしなかった」としている)。

おそらく防空部隊や地対艦ミサイル部隊を統合して運用するような部隊を指しているのではないか。

ただ、上記の拙稿でも触れているが、ロシアはこうしたA2/AD(接近阻止・領域拒否)能力の構築を北方領土だけで進めているわけではない。

ロシアは黒海や地中海東部、さらにはバルト海で防空システムや地対艦ミサイルによるA2/AD網の構築を進めており、昨年8月には「クリル諸島の海峡部及びベーリング海峡のコントロール確保、極東及び北極海の海域における太平洋艦隊の展開ルートのカバー、海洋戦略核戦力の戦闘能力向上といった重要な課題を解決するための、沿海州から北極圏に至る統一沿岸防衛システム」の創設にショイグ国防相が言及している。

【参考記事】ロシアの「師団配備」で北方領土のロシア軍は増強されるのか
【参考記事】ロシアが北方領土に最新鋭ミサイルを配備 領土交渉への影響は

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 9
    毛沢東への回帰? それとも進化? 終身支配へ突き…
  • 10
    「賢明な権威主義」は自由主義に勝る? 自由がない…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 3
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story