コラム

第2回日露防衛・外交トップ会談(2プラス2)──すれ違う思惑と今後の展望

2017年03月24日(金)21時30分

北方領土における軍事力強化についても、こうした文脈から理解する必要があろう。

まずは信頼醸成措置から

このように今回の日露2+2では議論が平行線に終わった印象が強いが、一定の進展に期待できる部分もある。

ショイグ国防相が言及した、「危険な軍事活動を防止するための日本との合意に調印する用意」はそのひとつである。

現在のところ日露は、海上及び空中での異常接近を防止するための海上事故防止協定(INCSEA)を1993年に締結しているが、それ以上の具体的な信頼醸成措置には踏み込めていない。

たとえば互いの兵力配備や演習動向を総合に通報したり、オブザーバーを入れて監視し合うといった制度(中露間やロシアと西側との間には存在する)を導入することができれば、北方領土問題をめぐって日露間に抜きがたく存在する軍事的な不信感の緩和には一定の効果が見込めよう。

ことに日本をまずもって「米国の同盟国」である観点から捉えるロシア側としては、安全保障面での信頼醸成なしに領土問題の進展はあり得ないとの見方が根強い。

プーチン大統領は昨年の訪日に先立ち「中露の国境問題解決には40年掛かった」と述べて日本側の期待をけん制したが、まずはこうした地道な努力を積み重ねることから始めるしかないのではないだろうか。

もちろん、日本としては安全保障の基礎を日米同盟に置いている以上、それを損なうものであってはならないが、すでに述べたようにこの程度の信頼醸成措置はNATOとロシアの間でも行われていることである。

ロシア側が求めているとされる、「北方領土への日米安保の不適用」のような同盟体制の根幹部分に踏み込まない限り、日本としてできることはまだ残っているといえよう。

まずは4月に予定されている安倍首相の訪露において、安全保障面でどの程度の議論が行われるのかを注視したい。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ワールド

ドイツ経済、低成長続く見通し 財政拡大でも勢い限定

ワールド

小泉防衛相、ヘグセス米国防長官と12日に電話会談

ワールド

米FRB、26年に2回利下げ見通し 大手金融機関が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story