コラム

北方領土のロシア軍近代化 公開資料で実像に迫る

2017年03月31日(金)19時00分

北方領土・国後島のユジノクリリスク(古釜布(ふるかまっぷ))の女性 Yuri Maltsev-REUTERS

<北方領土ではロシア軍の近代化が続いているが、その実態ははっきりしない。ロシア政府の調達情報や写真から読み解いた軍備は>

はっきりしない北方領土駐留ロシア軍の実態

小欄でも度々取り上げているように、北方領土でのロシア軍近代化の動きが続いている(「北方領土でロシア軍施設の再建が本格化」)。

ただ、その詳しい実態となるとよく分からないというのが実情だ。

たとえば北方領土に駐留するロシア軍の兵力は3500人ということになっているが、防衛白書によるとその根拠は次のようなものである。


「1997(同9)年の日露防衛相会談において、ロジオノフ国防相(当時)は、北方領土の部隊が1995(同7)年までに3,500人に削減されたことを明らかにした。05(同17)年7月、北方領土を訪問したイワノフ国防相(当時)は、四島に駐留する部隊の増強も削減も行わないと発言し、現状を維持する意思を明確にしている。また、参謀本部高官は11(同23)年2月、北方領土の兵員数について旅団に改編する枠組みの中では3,500人を維持する旨述べたと伝えられている。」 (『防衛白書』平成28年度版)

つまり、ロシア側の言い分を信用している、というのが現状である(その背景には、ロシア側の言い分を信用し得ると判断できるだけの自衛隊独自の情報活動が存在している筈ではあるが)。

両島に存在する陸軍、海軍、空軍(後述するように、北方領土には少数ながら海軍と空軍の部隊も駐留する)の人数比がどの程度であるのかもはっきりしない。

編成については一応のことが分かっているので、以下に概略を示す。

koizumi20170331161900.jpg
北方領土駐留ロシア軍の編成

北方領土の配備兵力は

だが、公開情報を丹念に追っていくと、ひょんなことからその実情を覗き見ることもできる。

たとえば近年のロシアでは軍事基地の建設に関する入札情報なども国家調達としてインターネットで公開されるようになってきた。2015年には国後島と択捉島の軍事施設を再建するための建設計画に向けた国家調達も公開されており、その際の設計要求が連邦特殊建設庁(スペツストロイ)の調達情報ページに掲載されているのを見つけた。

あくまでも陸軍の第18機関銃砲兵師団向け施設だけを対象としたものであり、また、「想定」ではあるが、これまで知られていなかった兵力の配分をある程度読み取ることができよう。以下は複数の調達情報を総合して筆者が整理したものである。

プロフィール

小泉悠

軍事アナリスト
早稲田大学大学院修了後、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所客員研究などを経て、現在は未来工学研究所研究員。『軍事研究』誌でもロシアの軍事情勢についての記事を毎号執筆

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