コラム

「不平等な特権待遇」国会議員の文通費に知られざる歴史あり(1)

2021年12月02日(木)07時20分

国会は回る、文通費で回る? Issei Kato-REUTERS

<衆院選に初当選した日本維新の会議員の告発で国民的批判の的になった国会議員の「文通費」。なぜ、ここまで高額かつブラックボックス化したのか。知られざる歴史から問題の本質を読み解く>

国会議員の「文書通信交通滞在費」(文通費)制度が改正される見込みだ。これまでの「月割」支給を「日割」に改める歳費法の改正は、高まる世論の批判を受けて与野党が必要性を認めており、改正の実現はほぼ間違いない状況だ。

しかし、1947年(昭和22年)に制定された文通費(当時は通信費といった)はもともと、公の書類を郵送し、公の性質を有する通信をなすための「手当」として創設されたものである。本来的には「経費」であり、民間企業と同様に、必要最小限の範囲で支給を認めるべき筋合いのものであろう。単に「日割」支給にするだけでは十分だとは言えず、英国議会の「経費償還請求制度」などを参考に、領収書の提出・公開を前提とした「個別経費の事後精算」および「使途に関する適正監査」制度を導入すべきではないだろうか。ただし、それが日本の民主政に与える中長期的影響も考える必要がある。

「文通費」は、昭和22年3月の帝国議会で大野伴睦らが提出した「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律案」が出発点である。当時は、前年11月3日に公布された新憲法(日本国憲法)の施行(5月3日)を目前に控えて、新しい統治機構の詳細を決める立法が熱く議論されていた時代だ。

戦前の帝国議会では、議員の歳費は「年」単位で支給されていた(もともと「歳費」の「歳」は一年の意味。ただし実際は帝国議会[通常会]の開会時と閉会時の2回に分けて支給)。それに対して戦後の歳費法は、「歳費」の名称は残しつつも、「月額支給」に改めるとともに、招集に応じなかった議員に対して歳費を支給しないという旧法の規定を「諸種の不合理な点」があるという理由で廃止した(ちなみにこの廃止は現在もなお影響を与えており、広島県参議院議員選挙公選法違反事件を契機に、逮捕された議員への歳費支給の停止、当選無効となった議員の歳費返納制度を導入する案が現在議論されている)。

そうした歳費制度改正と併せて新設されたのが、それまでなかった「通信手当及び事務補助員手当、弔慰金等」の規定である。通信手当の支給額は「月125円」。議員歳費が月3500円とされていたから、歳費の約3.6%相当に過ぎない。しかし、現在の文通費は「月100万円」で、月額の議員歳費129万4000円の約77%にまで膨れ上がっている。それは通信費が制定直後から値上げに次ぐ値上げを経てきたからだ。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹及び経営倫理実践研究センター(BERC)主任研究員を兼務。専門は政治過程論、コンプライアンス、情報戦略。最近の論考に「伝統文化の「盗用」と文化デューデリジェンス ―広告をはじめとする表現活動において「文化の盗用」非難が惹起される蓋然性を事前精査する基準定立の試み―」(社会構想研究第4巻1号、2022)等がある。
Twitter: @kitajimajun

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政府、中国系ハッカーによる大規模メタデータ窃取を

ワールド

原油先物が反発、5日のOPECプラス会合に注目

ワールド

ロシア、シリア指導部との連帯表明 「反体制派に外部

ワールド

ロシア富裕層の制裁回避ネットワークを壊滅、米英が連
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 9
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 10
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story